社長年頭挨拶

2006年01月04日

社長 芦田 昭充

一人ひとりの"Can Do"精神が企業体力を強化する

商船三井グループの皆さん、新年おめでとうございます。
今年度も3年連続で史上最高益を更新する見通しであり、晴れがましい気持ちで新しい年を迎えることができることをうれしく思います。

MOL STEP Review仕上げの年
当社グループが取り組んできた2004年度からの3ヵ年中期経営計画であるMOL STEPは、昨年5月のMOL STEP Reviewでの計画の上方修正を経て、今年はいよいよその「仕上げの年」となります。皆さんの一丸となった努力の結果、2年目にあたる2006年3月期については、その目標達成に見通しをつけることができましたが、私は計画達成の正念場は3年目の今年であると考えています。
中国の故事に「九仞の功を一簣に虧く(きゅうじんのこうをいっきにかく)」という言葉があります。九仞とは非常に高いことを表す言葉で、懸命に九仞の高さまで山を築きながら、あと一簣(簣は土を運ぶ籠のことです)で完成というところでも、最後の一簣を積み上げなければ山は完成しないままに終わるのであって、それまでの努力が無駄になってしまうという意味です。
私たちも万が一にも「九仞の功を一簣に虧く」ことがないよう、慢心することなく、決意を新たにMOL STEP Reviewの最終計画の達成に向けて取り組んでいきたいと思います。

「宜候(ようそろ)」
皆さんは「宜候(ようそろ)」という言葉をご存知でしょうか?「ようそろ」とは「宜しく候」が転じた形で、航海用語で船長が面舵、取り舵の号令を出した後、船首が指示された方向に向いたときに「そのまま直進前進せよ」の号令として使うものです。英語では"Steady as she goes"と言います。号令を受けた操舵手は了解の意味で「ようそろ」と復唱します。
私たちの船が進むべき方向は既にMOL STEP Reviewに明確に示されています。2009年をゴールとした新たな3ヵ年計画を見据えて、MOL STEP Reviewの達成に向けて「ようそろ」と力強く進んでいきましょう。

安定成長と外部評価の変化
ところで、昨年から外部の当社を見る目が変化し始めたように感じます。一般的にはまだ海運業は変動の激しい市況産業であり、リスクが大きいというネガティブなイメージがあります。しかしながら、現在の当社の真の姿は相当に強く、またしなやかになりつつあるといえます。
当社は経営資源の半分を長期的かつ安定的な利益が期待できる分野に、残る半分を市況の変動を捉えることで利益の最大化を図ることができる分野に振り向け、業績の安定的な拡大を図り、市況変動による業績への影響に対する耐性を高める努力を続けてきました。私も外部の方々にも理解を深めてもらうよう、安定利益部分を開示するなどして当社の姿を説明してきました。最近の外部評価では明らかにそれを認識し始めているようですし、そのことが株価や格付けにも影響してきたとすれば幸いです。

海上輸送はGrowing Market
また、海運業は成熟産業とも見なされがちですが、実際は構造的な世界需要の高まりを背景に長期的な拡大が見込まれる成長産業です。当社もそのような信念の下、積極的な船隊整備を進めてきました。今後環境に変化が生じたとしても、それに適応したやり方を見つけていくことで当社グループとしての成長を継続できるものと信じます。

Can Do Company
そのためには、私の社長就任以来皆さんにお願いしてきている「Can Do Spirit」=「なせば成るの信念」を更に持って、業務を進めていただきたいと思います。皆さん一人ひとりがCan Do Spiritを持ったCan Do Staffとなり、Can Do Meetingで互いに真剣に議論することによって、会社がCan Do Companyになっていくというのが私の理想です。
Can Do Companyは、何でもやる会社、チャレンジする会社、やり遂げる会社、常に勢いがあって向上と成長を続けていく会社です。そういう会社、グループを私は目指していきたいと思います。

戦略的発想を持った先を読む視点
年頭にあたって、皆さんに心がけていただきたいことをいくつか申し上げます。
1つ目は先を見る目を鍛えるということです。環境の変化を感じ取り、その先を読むためにはまず広い視点を持つことが必要です。自分の経験や周囲の限られた情報だけに頼るのではなく、様々な情報を集めてそれを活用し、物事をマクロに見る見方を鍛えなければなりません。変化の兆しを示唆する情報は、先を読む思考をしなければ発見できないものです。
たとえば、当社はガソリン、ナフサ、ジェット燃料などの石油製品を運ぶプロダクトタンカーの大規模な船隊拡充を進めてきました。実は、この分野が将来有望であると判断した根拠の一つに、米国エネルギー省が発表した「2025年までに米国の石油の消費量が1.5倍になる」という予測がありました。また、米国では製油所はほぼフル稼働の状況であり、石油消費のうち、約15%を石油製品の輸入に頼っています。同国では環境面の制約があることから、製油所の増設、新設に限界があり、消費量増のほとんどを石油製品の輸入でまかなおうとすると、実に輸入量は現在の4倍以上に増加するとの推論が成り立ちます。
更に、輸入ソースがこれまでの中南米から増産余力のある中東に遠距離化すると、船腹需要も一層増加するでしょう。このような読みを基に、油送船部からプロダクトタンカー船隊の特別強化を図りたいとの提案が出されました。私も米国での将来の人口増や自動車保有台数の伸びの予測などから、同国での石油消費は増加するだろうと考えていたため、油送船部の船隊拡充計画は「正に的を射た提案」との思いでした。実際に米国の石油製品輸入量は予測を上回る速さで増加しており、この船隊拡充は、当社グループの今後の業績向上に大いに貢献することが期待されます。
米国エネルギー省による石油消費量の予測などの情報は、私たちが毎日読んでいる経済新聞や経済誌にも出ています。ところが、読み手側で興味を持っていなければそれらの記事を見過ごしてしまい、その情報を使うことができません。
本当の先のことは誰にもわかりませんが、わからなくても考えることが大事なのです。できる限りの情報を集め、それらを基に戦略的発想を持って先を一所懸命に読むことで、自分なりの見方ができてくるはずです。それについて皆とCan Do Meetingで議論すれば更に考える力がついてきます。その上で自分たちの読みが正しいと考えるのであれば、実現に向けて積極的に、一直線に踏み込んでいけばよいのです。

過信・慢心をせずコスト削減に取り組む
2つ目はコスト削減意識を決して緩めないことです。挨拶の冒頭で、今年度も3年連続で史上最高益を更新する見通しであるとお話ししましたが、一方でこの好調な業績は、過去10年以上にわたって取り組んできた、たゆまぬコスト削減の努力の上に成り立っていることを忘れてはなりません。言うまでもありませんが、同業他社に勝るコスト競争力を確保できなければ、それは遠からず市場からの撤退を意味します。足元の好業績に浮かれた過信・慢心は絶対に許されません。常に危機感と創造力を持って、更なるコスト削減とコスト競争力の維持・強化に取り組んでいただきたいと思います。

企業活動の基本「安全運航」
そして当社グループにとって最も重要であり、企業活動の基本である本船の安全運航と貨物の安全輸送への注力を改めてお願いします。安全運航確保のために当社で培われた海技力は大きな財産であり、誇りです。しかしながら、ひとたび事故を起こせば、貴重な地球環境を汚し、大きな社会的影響をもたらすことを、今ここでもう一度一人ひとりの胸に刻み、安全に対してはあらゆる努力を惜しまず、細心の注意を払うことを常に心がけてください。

最後に、当社グループ各船の安全運航と全世界の商船三井グループ従業員と、そのご家族のご健康とご多幸をお祈りして、新年の挨拶といたします。