社長年頭挨拶

2009年01月05日

社長 芦田 昭充

MOL ニューディール
~将来の可能性を見据えて揺るぎない自信を持って挑もう~

Yes, we"Can Do".
MOLグループの皆さん、新年明けましておめでとうございます。
今年はアメリカでオバマ政権がスタートします。ご存知のとおり、オバマ次期大統領は「Change - Yes, We Can」という言葉を掲げて長く激しい選挙戦を勝ち抜き、国民の期待を一身に担って大統領に就任します。私も社長就任以来、「Can Do」を合言葉に皆さんと共に時代の変化を読み取り、大きな「Change」の実現に向け果敢に挑戦してまいりました。
振り返ってみますと、私が2004年に社長に就任した当時は、まだ当社の規模は相対的に小さく、財務体質もいささか脆弱でした。しかし昨年半ばまで好市況が続いた結果、当社は4年半の累計で、1兆円を超える連結経常利益を上げることができました。
2003年からスタートした市況の上昇を的確に見通して船隊増強を積極的に進め、常にマーケットのニーズに応えようとする当社の不断の努力と相まって、好市況というチャンスを存分に生かすことができたと考えております。現在当社の連結自己資本は7500億円に達し、ギアリングレシオ※は0.8倍と財務体質を大幅に強化し、大きな「Change」を達成しました。
※ギアリングレシオ=有利子負債÷自己資本

好況よし、不況なおよし
しかしここに来て、世界経済・日本経済を取り巻く景色は大きく変わっています。金融危機に端を発した実体経済の悪化が進んでいますが、短期間での目覚ましいV字型回復は期待薄と見るべきでしょう。海運においても、多少ドライバルクマーケットは反発するかもしれませんが、ここ2ヵ年程度は、マーケットの本格回復は難しいと覚悟しておく必要があります。
こうした経営環境において、松下幸之助氏の言葉「好況よし、不況なおよし」を思い出します。世界の海運業全般の次元では、不況は現時点及び将来の船腹過剰を調整するプロセスであると前向きに解釈されます。また個々の企業のレベルでは、不況時には普段見えなかった欠点が浮かび上がる、それを乗り越える努力をすれば、次の飛躍につながるという意味に理解できます。現在の状況を見渡してみると、まさに至言といえます。

船腹の需給は適正化の方向に
もう少し詳しく述べてみます。世界経済の急激なる減速、先進国の大きな景気後退で、海上荷動きにマイナスの影響が出るなど、海運にとっても良くないニュースであふれている観がしますが、冷静に見れば決して悪い面ばかりではありません。船腹供給面では、急速に拡大する計画であった中国・韓国の造船設備が、金融危機・信用収縮により大幅に見直されることになり、また大量に発注された船舶が竣工前にキャンセルされるなど、将来の船腹過剰が未然に調整される見通しが出てきました。あと1年~2年市況下落が遅れていれば、大量の船舶が竣工していたでしょう。まさに天の配剤と言っても過言ではありません。
さらに、これまでマーケットが非常に良かったために老齢船が延命使用されてきましたが、スクラップが促進されるなど、将来の需給バランスが適正化するための好材料がそろいつつあります。さらにこの数年来、素材・エネルギー価格の上昇とともに大幅に増大した燃料費、潤滑油費、修繕費などをはじめとするコスト全般についても、削減の可能性が大きくなりました。船員不足、修繕ドック不足などの問題も、海運市況の調整に伴い緩和されることが期待できます。

「MOL ニューディール」
今、当社がとるべき対策としては、1929年から始まった大恐慌を克服するために、フランクリン・ルーズベルト大統領が実施したニューディール政策にあやかりたいと考えます。「MOL ニューディール」として、短期、中期、長期の視点による諸対策を既定方針にとらわれず、強くしなやかに進めます。
短期的には逆艪(さかろ) ※ の発動、すなわち足元の荷動き減に合わせ、既に昨年から高Hire Base傭船の解約、老齢船のスクラップ、余剰船腹の係船、傭船の返船を進めています。併せて、前述したコスト削減やリスク管理にもより一層注力します。中期的には将来の船腹需要に向けて、船隊整備計画を進め、競争力のある船腹の充実に努めます。この基本方針は不変です。
さらにチャンスを生かしたM&Aなど、好況時には取り組みが難しい事案も検討したいと思います。皆さんも知恵を絞って、ピンチをチャンスに変える工夫を凝らしてください。「狂瀾(きょうらん)を既倒(きとう)に廻(めぐ)らす」(韓愈(かんゆ))という言葉があります。押し寄せて頭上に崩れ落ちる荒波を押し戻し、形勢を逆転させるという意味ですが、「MOL ニューディール」の着実な実行により、この厳しい事業環境の逆浪をわれわれの力で押し戻そうではありませんか。
繰り返しになりますが、今後2年間は厳しい環境が予想されます。しかしそれは同時に挑戦の時でもあり、MOLグループの組織と個人の実力がまさに試されます。その実力の差が企業間の優勝劣敗につながっていくのです。
ワイン用のブドウの樹は、痩せた土地ほど良い果実を実らせるそうです。土地が痩せているほど養分を求めて根を地中深く伸ばし、地下水に含まれる豊富なミネラル分などを吸い上げ、凝縮した良い果実を実らせると言われています。当社も、痩せたマーケットで根をしっかり深く伸ばして、立派な利益という「良いワイン」を醸す経営をしていきたいと思います。
※逆艪:源平合戦で源義経が屋島に攻め寄ろうとしたときに、梶原景時は船の舳先にも艪をつけて船が前進も後退も自在にできるようにすることを義経に進言した。

企業理念は不変
また、環境が変化しても変えてはならないことがあります。それは第一に企業理念として掲げている当社の理念です。そして、長期的に成長戦略を追求していくこともまた不変です。さらに安全運航は、当社の絶対妥協できないプリンシプルです。
昨年一年間も乗組員、船舶管理会社その他関係者の尽力により、重大海難事故ゼロで終えることができました。何よりも本船乗組員の皆さんの日々のたゆまぬ努力の積み重ねに、深く感謝したいと思います。
陸上従業員の皆さんも、安全運航のさらなる徹底のために常に原点に立ち返って考え、全グループ一丸となって重大海難事故ゼロを継続していきましょう。
中長期的には、世界人口の増加とともにグローバリゼーションの流れは止まることはなく、それに伴い貿易量と海上輸送量は拡大していくものと確信しております。従って「MOL ニューディール」を着実に実行してピンチをチャンスに変えていけば、再度大きく飛躍する時が必ずやってきます。状況が悪く見えても、その陰には将来のチャンスの芽が既に芽生えているものです。将来に揺るぎない自信を持って、力強く挑戦を続け、今後とも世界の海運リーダーとしてより良い未来に貢献していこうではありませんか。

最後に、MOLグループ運航全船の安全と全世界の当社グループの皆さんとご家族のご健康とご多幸を祈念し、新年の挨拶といたします。