社長年頭挨拶

2012年01月04日

社長 武藤 光一

天を怨まず、人をとがめず

新しい年を迎え、MOLグループの皆さんにご挨拶申し上げます。

2011年を振り返って

昨年を振り返ってみますと、ジャスミン革命、タイの洪水、ヨーロッパのソブリン危機など、いろいろと大きな事件があった年ですが、何と言っても3月11日に発生した東日本大震災が、日本にいるわれわれにとっては一番大きな衝撃を受けた辛い出来事でありました。あらためて震災の犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、被害を受けられた方々に心からお見舞いを申し上げます。震災直後から私が本部長となって対策支援本部を設け、当社グループの社員と船舶の安全を確かめるとともに、全世界の当社グループを挙げて数多くの被災地支援を行いました。「絆(きずな)」という言葉が昨年多くの日本人の心に刻まれましたが、私も当社グループの社員の底力と結束力を強く感じることができました。あらためて皆さんの行動に敬意を表します。

この震災による被害は当社の事業にも及んだのですが、さらに、円高、燃料費高、船腹供給過剰による市況の下落、景気後退による需要の減少により、当社業績は大きな荒波にもまれています。2011年上期は、半期としては会社設立以来の赤字に陥りました。下期はドライバルクでの市況の持ち直しと自動車輸出回復などを考慮し、上期の赤字を取り戻す見通しを立てましたが、当社を取り巻く経営環境は今後も竣工してくる新造船による船腹供給増や景気の低迷によって、まだまだ予断を許さない状況です。特にコンテナ事業は、超大型コンテナ船の大量竣工と欧米経済の不振により非常に厳しい状況が続いています。

今年も新造船の大量竣工は継続すると予測され、厳しい経営環境が続くと覚悟しなければならず、相当な緊張感を持ってこの環境に対峙しなければなりません。しかし、一方で2013年以降は新造船の竣工量も落ち着いてくる見通しであり、先行きに明るさが見えてきます。中長期的にも、船腹供給過多の大きな要因である中国造船所の2/3を占める民営造船所においては、市場原理が働いて、設備能力の調整が行われ、船腹の過剰供給も抑制されてくると思われます。

お客様から選ばれる会社に

このような状況下、当社が今後生き残り、かつ他社と差をつけていくには、基本に立ち返り、お客様に選ばれる会社、信頼される会社であり続けることが重要です。そのためには、信頼の源となる4つの鍵を今まで以上に強化していく必要があると考えます。

一つ目の鍵は安全運航です。お客様が船社を選ぶにあたって、安全運航の水準が常に評価されていることは論を俟ちません。安全運航については現在「GEAR UP! MOL」において「世界最高水準の安全運航」を目指して、Phase4の施策を遂行中です。安全運航の見える化を推進し、安全運航体制のあらゆる点において、われわれのレベルがどの程度なのかを客観的に検証しながら、一歩一歩確実に歩みを進めており、当社の安全水準はこの4年間で確実に向上してきました。また、環境負荷の低減を実現しつつ競争力のあるコストで安全運航を提供していくのもわれわれの役目です。

二つ目の鍵は財務体質です。この逆風下にあっても当社の財務体質は格付けが示す通り世界の船会社の中で最高レベルです。市況の低迷と欧州金融不安が相俟って比較的大手の船会社でも経営危機に陥る会社が出てきている中で、お客様から見た取引先の安定性という点において当社の相対的競争力は高まっています。今後さらに船社の選別が厳しくなると予想される状況下において、当社はより優位な立場にあると言えますが、バランスシートのみならず、弛まぬコスト削減などにより、足元のキャッシュフローを少しでも改善し評価を得る努力が必要です。それにより、この強みを維持し、さらに伸ばしていくことが重要です。

三つ目の鍵は輸送サービスの質です。自動車船ではDamage Prevention、通称ダメプリ、と呼んでいますが、髪の毛一本の傷も残さないような対策を常時見直し新しく策定したり、定航部では定時到着率を定期的にお客様に公表しています。これからもお客様の貨物を大切に、確実に輸送する品質の高いサービスを提供し、実感していただく必要があります。

そして最後の鍵が営業力です。先に述べた全ての要素を高い次元で組み合わせた上で、グローバルに展開するお客様のニーズに合わせてわれわれを輸送業者としてご指名をいただけるかどうかは、各人の営業力にかかっています。最後は人と人との信頼関係でビジネスは決まります。当社の強固な安全運航、財務体質、質の良いサービスが業績に反映できるよう、お客様との強固な信頼関係を築いて下さい。

天を怨まず、人をとがめず

孔子の晩年の言葉に「天を怨まず、人をとがめず、下学(かがく)して上達す」があります。これをわれわれの今の状況に当てはめれば、マーケットを恨まず、また他人のせいにせず、自分たちの努力でできることをしっかりと実行することで、改善を目指すべしと読むことができます。

苦難はわれわれを成長させる良い機会でもあり、こういう厳しい環境の時だからこそ、やるべきこともたくさんあります。「蒔かぬ種は生えぬ」と言い、英語にも"You must sow before you can reap." ということわざがありますが、今種を蒔かなければ将来の実りはなく、次への飛躍もありません。苦しい時こそ努力と工夫を重ねることで、将来の大きな利益やビジネスの拡大に繋げることができるのです。天の所為、人の所為にしていても何も生まれません。その意味で大変厳しい事業環境の下ではありますが、昨年から当社はいろいろと種を蒔いてきております。

グローバルな海上輸送のニーズを捉える試みとして、昨年大型LPG船事業はビジネスの中心地、シンガポールのPhoenix Tankersが行うことになりました。また、自動車産業が集積するタイでは、アジア域内の自動車ビジネスを強化するためにMOL Bulk Shipping (Thailand) Co., Ltd.の設立を行いました。鉄鋼原料のシンガポールにおける運航会社であるMOLCISもその営業規模を拡大させています。このように、顧客のそばで営業しそのニーズにより応えるため、海外のグループ会社を通じて、更なるグローバル化を進めています。

パートナーとの業務提携も昨年蒔いた大きな種の一つです。Hoegh社との欧州域内完成車輸送会社Euro Marine Logistics N.V.設立、A.P.モラー-マースク他二社との世界最大規模のVLCCプールの結成、そしてコンテナ船事業ではグランドアライアンスとの欧州航路における包括提携を行いました。また、LNG輸送においては、中国でChina ShippingとJ/V会社を設立し中国への輸送に進出し、インドネシアで現地パートナーと組みLNGの内航輸送にも参画します。今後も、さまざまなパートナーとの協調を模索し、事業の拡大、スケールメリットによる運航効率改善に取り組んでいくことが重要になるでしょう。

そして減速航海です。昨年はほとんどの船種において、減速運航の深度化を進めました。減速航海は燃費削減のみならず、船腹供給過剰を低減する効果が期待でき、また世界的な環境負荷削減の流れにも合致するものなので、今後は減速航海が海運業界のグローバルスタンダードになっていくはずです。

また、日本の経済安全保障強化の一環として、トン数税制が拡充されました。日本船主協会の芦田会長はじめ関係者の訴えにより、震災での日本海運の活躍が評価され、日本の経済安全保障における本邦海運会社の重要性が再認識されました。これにより、日本海運が諸外国の海運会社と競争していくための条件が大きく改善されることになりました。これは、業界そして当社にとって大きな価値のあるステップとなるでしょう。あらためて関係者の皆様に感謝申し上げます。

さて、今年、2012年は辰年です。昔から辰=龍には「運気上昇」という縁起がありますので、今年を反転の年にしたいと思います。さらに今年は「GEAR UP! MOL」の最終年度であり、2013年度から始まる次期中期経営計画策定の年でもあります。皆さんとはコンパス会をはじめとするいろいろな場で徹底的に議論を深め、実際に種を蒔く、すなわち、明日を見据えた行動プランをしっかりと作っていきたいと思います。激しい環境変化の中で、明日を創る変化を生みだす知恵と勇気と行動を示していきましょう。

最後に、MOLグループ全運航船の安全をわれわれ自らの手で創り上げていくことを誓い、全世界の当社グループの皆さんとご家族のご健康とご多幸を祈念し、新年の挨拶といたします。