名船の伝統を受け継ぐ、古き良きフェリー
2019年3月現在、航行する「さんふらわあ」は10隻。さんふらわあ船隊で最年長にして数少ない「20世紀生まれ」なのが、今回紹介する大阪~別府航路に就航する2隻です。
「さんふらわあ あいぼり」は1997年12月、「さんふらわあ こばると」は1998年4月にデビューしました。いずれも20歳超えの「ベテランさんふらわあ」と言えるでしょう。それは同時に、両船が「日本フェリー史の生き証人」であることも意味しています。
2隻のデビューは「さんふらわあ」「さんふらわあ2」という、いまなお語り継がれる伝説の客船の引退を意味していました。そして、別府航路の主役が客船からカーフェリーへと完全に交代を果たす、その象徴的な出来事でした。
ただ、「さんふらわあ あいぼり」は大阪~別府航路開設100周年を記念した「よみがえる昼の瀬戸内航路」(2011年)の航海に起用されました。別府から大阪まで、客船時代の優雅な航海を見事に再現しきったのです。
別府航路は関西汽船時代から続く伝統ある航路。その重みを受け継ぐ2隻は、古き良きフェリーのテイストを漂わせる、貴重な「さんふらわあ」なのです。
夜の瀬戸内を走る海上のホテル
乗客スペースは2階建て。最初に足を踏み入れるエントランスホールがあるのはBデッキで、その上がAデッキというシンプルな構造になっています。客室はABデッキともに、ほぼ船首部分に集中しています。まずはBデッキの客室におじゃましてみます。
こちらがツーリストベッド。
定員によって3タイプに分けられます。2段ベッドが2つ向き合った、コンパートメントタイプの4名定員キャビン。18室あります。窓こそありませんがテレビがあるので、現在位置チャンネルでどこを走っているのかがわかります。電源コンセントもあるので充電もバッチリ。ハンガーやスリッパもそろっています。
左の写真の4名定員キャビンは2名以上での貸し切りが可能。家族旅行にはもってこいのカテゴリーですね。
8名定員キャビンは7室、12名定員キャビンは9室あります。こちらは仲良しグループ旅行に最適。テレビはありませんが、おしゃべりに花を咲かすにはかえっていいでしょう。
続いてこちらがファースト。
4人定員で19室あります。やっぱり窓があると、かなり開放感はありますね!さらに奥座敷もあって、団らんやおしゃべりにもってこい。「せっかくの船旅、夜の瀬戸内海を眺めたい」というファミリーやグループ旅行に最適です。
テレビはもちろん、洗面台もあるので、歯みがきや洗顔も部屋でできます。ということで歯ブラシ・歯磨きチューブ・タオルも完備なのです。また、浴衣も用意されています。
そしてファーストには3つの限定キャビンがあるのです。
まずはバリアフリー。
定員4名で2室のみ。床がカーペットではなく、車いす利用の乗客にも対応しています。また、奥座敷スペースも段差がないユニバーサル仕様。備品は他のファーストと同じです。
なお、AB両デッキには多目的WCがあります。20世紀生まれのさんふらわあですが、設備は21世紀仕様に合わせてあります!
こちらは限定2室のハローキティールーム。
さんふらわあオリジナルのハローキティーづくしのメルヘンチックなキャビンです。さらに、宿泊者には、さんふらわあオリジナルのラバーマスコットがプレゼントされるんですよ。
そしてそして、1室のみのレアキャビンがこちら。それが、くまモンと夢見る船旅ルーム!
さんふらわあオリジナルのくまモンのカーテンやマット、さらに枕と、室内は完全に「くまモンワールド」だモン。夢の中にもくまモンが出てきそうですねえ…。宿泊者にはオリジナルビニール巾着のプレゼントもありますよ。
女子旅とペット連れに優しいキャビン
それではAデッキにしかないキャビンをのぞいてみましょう。
こちらがスタンダード。
窓無しのキャビンです。ツインとシングルの2タイプあり、それぞれ10室と8室あります。洗面台とテレビがあり、ハンガー・浴衣・歯ブラシ・歯磨きチューブ・タオル・スリッパもそろっています。特にシングルは「おひとりさま」には最適のキャビンですね。
いよいよ最上級キャビン、デラックスにご案内。
ツインが8室、シングルが6室と合計14室あります。大きな窓付きで、洗面台・テレビを備えているのは当然。そしてバス・トイレ(温水便座)があるのは、このキャビンだけ。
シャンプー・コンディショナー・ボディシャンプー・フェイスタオル・バスタオル・タオルもそろっています。冷蔵庫も付いており、その他、茶器セット・電気ポット・ドライヤー・ミネラルウォーター(ペットボトル)まで完備しているんですよ。
備品にはハンガー・浴衣・歯ブラシ・歯磨きチューブ・スリッパがそろい、食事以外はこの部屋を出なくても洋上ライフを満喫できるようになっています。優雅な瀬戸内ナイトクルーズを演出したい方は、迷わずこのキャビンを!
これまで紹介してきたキャビンはすべてデッキの船首部分にありましたが、例外があります。それがツーリスト。
Aデッキの中心部にあります。窓のある部屋とない部屋があります。かつてのフェリーの代名詞でもあった、和室の大部屋。ですが、デジタル放送受信テレビや、共用ながらもハンガーとスリッパが用意されていますし、充電に活用したいコンセントも。
荷物を収容するロッカーもあります。最近のフェリーではこういった昔ながらの大部屋が姿を消していく傾向にあり、現存する貴重なカテゴリーと言えます。
でも、隣に知らない人がいて、一緒に川の字になって眠るのがつらい、という人も多いですよね?特に女性やお子さん連れのファミリーには…。ご安心ください。ツーリストには女性専用のレディースルーム、乳幼児を連れた乗客専用のファミリールームの設定もあるんです。
また、最近はやりの女子旅に対応した女性専用のレディースルームは、このカテゴリー以外にもファースト4人部屋/ツーリストベッドにも設定されています。
近頃フェリーにはやるもの、といえばペットと一緒の旅も忘れてはいけません。
この船にもペットルームがありますよ。面会時間は夜間22時までと翌朝5時半からとなっており、22時の消灯後、ペットルームは施錠されます。
「インフォメーション」よりも「案内所」
次にパブリックスペースを歩いてみましょう。
まずはBデッキ、エントランスホールから。最近のフェリー、天井を高くし、窓から陽光を差し込ませた開放感のあるロビーがトレンドです。が、20年前はこのようにちょっとシックな雰囲気が好まれたようですね。
インフォメーション。英語より「案内所」という文字が大きいのも、どことなく老舗航路の船らしさをかもし出しています。
案内所のすぐそばには貴重品ロッカー。無料で利用できます。
案内所に隣接して売店が。寄港地である関西・九州のお土産やお菓子がいっぱい。陸上で買い忘れたお土産も、ここでそろえられます。
買い忘れといえば…タオルや洗面セットなど日用品もそろっているので、大丈夫。酒盛りのお供や、ちょっと小腹がすいた時のお菓子、そしてドリンクもアルコールの有無にかかわらず取りそろえられていますね。
売店が閉まっても自動販売機が元気に稼働!ただし、アルコール自販機は、23時までの営業です。
そして売店で忘れてならないのは、船上でしか買えない「さんふらわあオリジナルグッズ」の数々。乗船の記念にどうぞ。
ゲームコーナー。20世紀生まれの船ですが、ゲームの種類は意外と(?)新しいようです。
別府に行く前に、展望大浴場を満喫
日本のフェリーといえば…展望大浴場!脱衣所のロッカーは100円のコイン返却式。100円玉1枚握りしめて浴室へ行きましょう。あと、バスタオルもお忘れなく。
広~い大浴場。昇る朝日と海を眺めながらの朝風呂は最高です。浴室内には、シャンプー・コンディショナー・ボディシャンプーがそろっています。風呂上がりには、まず備え付けのヘアドライヤーで髪の毛を乾かしてマッサージチェアで日ごろの疲れを癒してしまいましょう!
Bデッキにはレストランがありますが、それは後の楽しみということにして、Aデッキに上がってみましょう。
長い船旅でも退屈させない仕掛けが…
右舷側に伸びるプロムナード(展望通路)。窓が大きく、瀬戸内の夜景が一面に展開します。
この船の特長は、プロムナードにも座席スペースが多いことです。しかもコンセントも多く、充電やパソコン仕事にもありがたい空間です。
子どもが長い船旅でも退屈しないように設けられたキッズスペース。人気キャラクターのおもちゃも充実しています。消灯時間まで人気のアニメも放映していますよ。
キッズスペースに隣接したこの空間は…
ラウンジです。金・土曜発の週末便では、ここでイベントも行われます。
プロムナードの突き当りには喫煙室があります。船内は全面禁煙ですが、唯一、ここだけが愛煙家のパラダイス。
そしてこのデッキの船首部分には隠れ家的スペースが。
それが船首サロン。
進行方向の景色がば~っと眼前に広がります。ただし、夜間は操船の妨げとならぬよう遮光カーテンが閉じられるので、この航路で景色が見られるのは到着直前の早朝となります。
反対側の船尾には展望デッキがあります。ここからは明石海峡大橋や瀬戸大橋、来島海峡大橋の通過シーンなど、瀬戸内海の夜景やサンセットを思う存分楽しむことができます。
チョコレートファウンテンもあるレストラン
さあ、待ちに待った食事の時間です。この船では夕食・朝食ともにバイキング形式です。
まずはレストラン前の券売機で食券を買いましょう。夕食は和・洋・中の豊富なメニューに、ついつい目移りが…。
そして、大分名物の「とり天」や、九州産の素材を使ったお味噌汁など、この航路ならではのメニューも試したいところです。
スイーツ好きは見逃せないチョコレートファウンテンを発見!バイキング料金には、こちらのソフトドリンクのドリンクバーも含まれているので、いろんな種類の飲み物が飲み放題なんです。
レストラン内にも自販機があります。こちらではビールや缶酎ハイといったアルコール飲料が売られています。
生ビールの中カップ、そしてさんふらわあオリジナルの神戸ワイン(赤・白)も左党にはたまらないのです。
そんなに食べきれない、という方にお勧めなのがカレーセットのテイクアウトメニュー。カレー以外のメニューも時期ごとに用意されています。
朝食は和・洋バイキングとなります。
窓から差し込む朝日を浴びながら洋上のブレックファースト。素敵な一日の始まりです。
早起きして別府の湯けむりを見よう
別府航路に乗るなら、金曜または土曜出港の週末便がおすすめです。先にもちょっと触れましたが、船内イベント目白押しだからです。天気が良ければ出港時に五色のテープ投げが行われ、そしてドラの音ともに船はゆっくりと動き出します。
船内ではジャズなどのミュージックコンサートや、ジャグリングやマジックなどの大道芸、落語が行われることも。かつての別府航路といえば瀬戸内の多島美を満喫できるデイクルーズが目玉でしたが、現在はウィークエンドの瀬戸内ナイトクルーズが楽しみです。
そして別府行きの便では、ぜひ早起きを!船首には別府の街並と背後に山並みがパノラマのように展開します。別府の町のそこかしこから湯けむりが立ち上り、展望デッキでは潮風に交じって硫黄の臭いがかすかに鼻腔を刺激します。
いかにも天下の名湯・別府にやってきたことを実感する瞬間です。時代が変わり、船が変わっても、この別府の風景は変わりません。
伝統の別府航路をゆく、オールドファッションなさんふらわあ。「さんふらわあ あいぼり」「さんふらわあ こばると」では古き良き雰囲気を漂わせながら、100年以上続く歴史ある航海を心ゆくまで味わえるでしょう。
金丸知好(カナマルトモヨシ)/航海作家
1966年富山県生まれ。日本のフェリーだけでなく外国航路や、中国や韓国の国内フェリーにも乗船経験が豊富。フェリー専門誌「フェリーズ」(海事プレス社)の執筆、「クルーズ」誌(同)に「フェリーdeクルーズ」を連載している。主な著書に「アジアフェリーで出かけよう!」(出版文化社)、「フェリーでGO!」(ユビキタスタジオ)、「超実践的クルーズ入門」(中公新書ラクレ)など。
この記事のキーワード