もくじ
2023年1月、110年以上の歴史を有する大阪~別府航路に新造船「さんふらわあ くれない」がデビューしました。日本初のLNG(液化天然ガス)燃料フェリーの登場で、就航前から大きな話題を呼んでいた「さんふらわあ くれない」。「これまでのフェリーの概念を打ち破った」と言われるその船内を、航海作家の金丸さんが詳しくレポート。このページでは、パブリックスペースをメインに紹介します。船舶イラストレーターのプニップクルーズこと中村さんの船体解剖図で位置をイメージしながらご覧ください。
日本初のLNG燃料フェリーでの驚き
まずは船尾から失礼します。
2基のLNG燃料タンクが目に入ります。従来のフェリーには見られなかった風景です。乗船しているとなかなか実感しにくいのですが、LNG燃料化によって二酸化炭素の排出量を従来の約25%削減、窒素酸化物の排出量を約85%削減、そして硫黄酸化物をほとんど排出しない、環境にやさしいフェリー「さんふらわあ くれない」。そのシンボルがこちらのタンクなのです。
その効果を目に見える形で実感してみたいなら、出港直前に船尾の展望デッキへ出てみるとよいでしょう。
これまでの船だと、ファンネル(煙突)から煙をモクモク上げていた風景が当たり前でした。
ところが「さんふらわあ くれない」は違います。煙らしきものはほぼ見えません!
また、出港前に感じるフェリー独特の小刻みな振動。それもこの船では全く感じません。そのため「あれ?!いつのまにか船が岸壁を離れていた!」と驚く乗客の姿も見られます。
開放感あふれるアトリウムが持つ格式
それでは船内を見て回りましょう。
旅客用の空間は6階から。
一歩足を踏み入れると、途方もない開放感を覚えるアトリウムが目の前に。
広い、広すぎる!
瀬戸内海を夜間に航行する船舶では最大の船長となる199.9メートルを誇るだけあって、非常にゆとりのある空間が広がります。
ちなみに「さんふらわあ くれない」定員ひとり当たりの内装面積は10.9平方メートル。従来船「さんふらわあ あいぼり/こばると」の6.9平方メートルに比べてみれば、その拡大ぶりがわかるでしょう。
頭上を見上げてみましょう。
3層吹き抜けのアトリウムは、横幅だけではなく縦にも広さを感じられる空間。吹き抜けのアトリウムは、いまや日本のフェリーでも珍しい存在ではなくなっています。
ただ、「さんふらわあ くれない」では何かが違います。
それはズバリ「高級感」。それを漂わせるのが、欄干に配された竹細工の文様。こちらは別府の伝統芸能をイメージしたもので、110年の歴史を有する別府航路の歩みと相まって、日本の伝統が持つ格式も感じられます。
5年の進化を示すプロジェクションマッピング
最上階である8階には竹細工をあしらったスクリーンがあり、乗船開始時と夕食終了後に実施されるプロジェクションマッピングの演出でも活躍します。
このスクリーンには別府や大阪の観光スポットの名が映し出されるなど、映像の補完的な役割を果たします。また、日本語だけではなく英語・中国語・ハングル文字にも対応。戻りつつあるインバウンドへの配慮もみられます。
また、プロジェクションマッピングの演出にも注目です。
プロジェクションマッピングは2018年にデビューした志布志航路の「さんふらわあ さつま」に国内で初めて導入されました。
それから5年の歳月が流れ、「さんふらわあ くれない」ではその進化した姿が見られます。
従来の寄港地紹介のほかにドローンを使った船内ツアーや、子どもも十分楽しめる「さんふらわあ」にまつわるショートストーリーのアニメも登場。
さらに、定時のショーの終了後も、プロジェクションマッピングの楽しい映像が流れ、瀬戸内ナイトクルーズに華を添えます。
プロムナードの丸窓にある仕掛け
それでは6階にある施設を見ていきましょう。
こちらはレセプション。背後の壁にも和を感じさせる文様があしらわれています。
レセプションの真向かいにはラック。
「さんふらわあ くれない」のパンフレット、上空で見られる星座案内、別府の観光案内などが置かれ、重宝します。
レセプションの隣にはショップ。
別府をはじめ大分県の特産品がズラリ勢ぞろい。陸上でお土産を買い忘れても、ここで間に合います。
充実したショップのお土産類。地酒やおつまみにもなるお菓子も豊富です。
別府のレトロ絵ハガキも、面白いですね。
もちろん船上でしか手に入らない「さんふらわあオリジナルグッズ」も多数販売中。
レセプション、ショップと並んで左舷側にあるのがプロムナード。
航海中にくつろげるスペースです。
まるで客船のような大きな丸窓が特徴的ですが、ここにも座れるようになっているんです。ひそかに人気のあるポジションという話も…。
SSQで船内のデザインアートや「さんふらわあ」の歴史もバッチリ
アトリウムの中央部にもくつろげるストールと楕円形のテーブルが。
このテーブル、船内Wi-Fiサービス「SSQ(SunFlower Smart Quest)」の画面が表示されるんです。
入港時間や寄港地の天気、日の出や日没の時刻といった旅行に役立つ情報のほかに、船内にデザインされた和風のアートが意味する解説も見ることができます。
アートにはQRコードが埋め込まれており、SSQを利用することによってそれを読むことができます。
さらに別府航路をはじめ、「さんふらわあ」など内航船1世紀の歴史を知ることができるコンテンツも。
1912年にデビューした初代「紅丸」から、デビューしたばかりの「さんふらわあ くれない」まで。日本の内航船の歴史を彩ったさまざまな船やその歩みがわかります。それはデジタル博物館と言えるくらいに、内容も質量ともに充実しています。
もちろん手持ちのスマホやタブレット端末でもSSQは利用可能。約100タイトルの映画を無料で視聴できるビデオサービスもありますし、プロジェクションマッピングのショーも客室にいながらスマホで見られるんです。
右舷側には「さんふらわあ」おなじみの記念撮影コーナー。
船長服を着て、新造船をバックにいかが?
7階への昇降に使う階段の下スペースにキッズコーナーがあります。
左舷側にある自動販売機コーナー。
販売機も和風デザインなのがポイントです。
6階にはサイクルピットも。「さんふらわあ くれない」には自転車も持ち込めます。
瀬戸内の美食をたっぷり味わえるレストラン
そして6階の後方右舷側にあるのがレストラン。
このように混雑状況がひとめでわかるのがありがたいですね。
自動券売機でチケットを購入してから入ります。
後方部には大人数にも対応できるテーブルあり。
レストランの席数は従来船「さんふらわあ あいぼり/こばると」の約1.5倍。
アトリウムと同じく、とても広々としたレストランは混雑時もあまりゴチャゴチャした雰囲気にならなさそう。
夕食・朝食ともにビュッフェスタイル。
通常は手前のレーンのみ使用しますが、多客期は後方のレーンも稼働するとのこと。
メニューはもちろんどちらも同じ。
「りゅうきゅう」や「とり天」など大分の郷土料理もメニューに。
「さんふらわあ」マークの入ったおでんメニューも健在。
新鮮なお刺身や讃岐うどんなど瀬戸内の美食をご堪能あれ。
もちろん「さんふらわあカレー」もいただけます!
レストランの入り口には、何やら見覚えのあるミシュランの文字・人形が。
「くれない」では、「さんふらわあ」ならではのミシュランの味も楽しめます。
2019年にミシュラン京都・大阪2020版にて一つ星を獲得した、大阪の名店「アニエルドール」”藤田 晃成”氏監修のデミグラスソースを使用した牛肉の赤ワイン煮やハンバーグ。「さんふらわあ」でしか味わえない逸品です。
サラダバーの野菜も豊富。ドレッシングはレストランで評判で、買い求める乗客も多いという「カトレアさんのしょうゆドレッシング」。ショップにて絶賛発売中☆
スイーツも充実。
抹茶カステラと抹茶ケーキは、日本一の茶師として知られる”森田 治秀”氏が監修する、京都宇治の本格和カフェ「茶想もりた園」の人気スイーツ。一番茶にこだわり、深い味わいを楽しめる最高級の抹茶を使用。
これまでのフェリーにありそうでなかったもの。それはレストラン内のお手洗い。
「さんふらわあ くれない」ではレストラン最後尾にそれが設けられました。これで、食事中にレストランを出る面倒も省けます。
女性はこもってしまう!?ゴージャスなパウダールーム
今まで以上に使いやすく、快適になったと評判の女性用トイレも、「さんふらわあ くれない」で特筆すべきポイントです。
6階の女性用トイレには、仕切りカーテンがあり個室感覚で使えるパウダールームがいくつも並んでいます。お化粧や髪型のセットなどが、スツールに座って行えます。しかも手洗器も付いています。
鏡面埋め込みのライトを備える洗面台もあります。そしてそのライトは色味を3段階選べるんです。
高級ホテルを彷彿とさせるゴージャスなパウダールーム。「長時間こもってしまいそう」という女性の声も聞かれました。客室に洗面台がなくとも、このパウダールームで身支度を整えることができるのは、女性にとってとても嬉しいですね。
より広く、快適になった、海を眺めながら入浴できる展望大浴場
それでは次に7階へ行きましょう。
左舷側には女性用、右舷側には男性用の展望大浴場があります。
レストランと同じく、デジタルサイネージで混雑状況がひと目でわかります。
浴槽は3つ。
「さんふらわあ あいぼり/こばると」のそれに比べると約2倍の面積。
広々とした空間で、ゆったりとしたバスタイムを過ごせるようになっています。
ボディソープとシャンプー、コンディショナーも備わっていますよ。
6階の女性用トイレで紹介した仕切りのある個室のパウダールームや鏡面埋め込みのライトを備える洗面台は、女性用の展望大浴場にも備わっています。
また、大浴場が苦手な方やさっとシャワーで済ませたいという方には、女性用・男性用とも乗船中はいつでも利用可能な個室シャワーもあります。
7階中央のやや後方にペットルームがあります。
もちろんドッグランも併設。
ウィズペットルームに隣接していますが、このキャビンについては客室編で紹介しましょう。
展望デッキに出ました。
「さんふらわあ くれない」の展望デッキは7階と8階にあります。
いずれも船尾に位置していますが、7階右舷側には展望デッキも。ここでは「さんふらわあマーク」と記念撮影をしてみましょう。
そのまま8階へ上がります。
この壁の向こうにあるのが、LNG燃料タンク。
乗船中は、このようにLNG燃料タンクを見ることができないので、LNG燃料タンクは乗船前後に陸上から見るのが良いでしょう。
船旅ファン垂涎のスイートカフェラウンジ
客室編で紹介しますが、8階はすべてスイートルームというハイグレードキャビンのエリア。
そのため、8階乗客専用のスイートカフェラウンジが設けられています。
ここに入ることができるのは、もちろんスイートルーム利用者のみ。
コーヒー飲み放題、アイスクリーム食べ放題。
注目を集める新造船「さんふらわあ くれない」のなかでも、すべての船旅ファン垂涎の空間と言えるでしょう。
8階、そして7階の壁や床に注目。
なんとも上品な和のテイストがそこかしこに漂っています。
船全体を覆う、上質な和のぬくもり。
ここで、あることに気が付きます。
クルーズ客船「にっぽん丸」と同じ芳香を「さんふらわあ くれない」にも感じる、と。
それもそのはず。
「さんふらわあ くれない」のインテリアには、「にっぽん丸」改装時の内装デザインを手がけた渡辺友之さん(フラックス・デザイン代表)が関わっているからなんです。
実は渡辺さん、2018年デビューの「さんふらわあ さつま/きりしま」も担当しています。
その内装の美しさや日本初のプロジェクションマッピング導入で世間を驚かせた「さつま/きりしま」の登場から5年。「さんふらわあ くれない」はさらにグレードアップした姿を見せてくれます。
時代を越えて、常に先駆けとなる「紅(くれない)の船」
こちらは7階の廊下。
戦前の大阪商船時代のポスターや瀬戸内地図、パンフレットをあしらったレトロ感覚あふれるデザインにも、渡辺さんのセンスが光ります。
1912年、大阪商船の別府航路開設とともにデビューし、温泉都市・別府を世に知らしめた「紅丸」。
1924年に就航した2代目「紅丸」は、当時の最新技術「ディーゼルエンジン」を搭載。
1960年登場の3代目「くれない丸」は豪華な内装を備え「瀬戸内海の女王」に異名をとった、現代のカジュアルクルーズフェリーの先駆となりました。
別府航路の黄金時代を大正・昭和と時代を越えて演出してきた「紅(くれない)の船」。
そして今年、「さんふらわあ」の名を冠して4代目が瀬戸内海によみがえりました。
最新のテクノロジーと、伝統的な和のテイストがミックスした「さんふらわあ くれない」は、パブリックスペースを見ただけでもこれまでにない魅惑の船だとわかります。
そして、客室を見ることで、この船が持つさらなる魅力に気づくことでしょう。
ぜひ客室編もご覧ください。
金丸知好(カナマルトモヨシ)/航海作家
1966年富山県生まれ。日本のフェリーだけでなく外国航路や、中国や韓国の国内フェリーにも乗船経験が豊富。フェリー専門誌「フェリーズ」(海事プレス社)の執筆、「クルーズ」誌(同)に「フェリーdeクルーズ」を連載している。主な著書に「アジアフェリーで出かけよう!」(出版文化社)、「フェリーでGO!」(ユビキタスタジオ)、「超実践的クルーズ入門」(中公新書ラクレ)など。
プニップクルーズ:中村辰美(なかむら たつみ)/イラストレーター
1957年東京生まれ。中学時代の伊豆大島までの船旅で船の魅力にとり憑かれ、船好きのイラストレーター故柳原良平氏の著書に感銘を受け船の絵を描き始める。会社員生活の傍ら、独学で描いた船の絵をネットで投稿しているうちに船舶業界から認められて船専門のイラストレーターとして独立。クルーズ客船のギフト商品、船のパンフレットや広報誌の表紙、船旅雑誌のイラスト記事などのほか、東京海洋大学やクルーズ客船での水彩画教室も実施。2021年に画集「船体解剖図」を出版。年一回、横浜で個展を開催。
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