2023年1月に就航した日本初のLNG燃料フェリー、「さんふらわあ くれない」。
フェリーで日本1周をしたこともあるフェリーを知り尽くす航海作家の金丸知好さんと、YouTubeの「船LOVEチャンネル」も運営する船舶専門イラストレーターのプニップクルーズこと中村辰美さんに「さんふらわあ くれない」に乗船して新造船の魅力とフェリーの楽しみ方を語っていただきました。別府への航路も熱い対談もまだ半ば。対談の後半をご紹介します。
≫対談の前半はこちら
船旅のプロがおすすめする“デイクルーズ”
(中村)
この前、通常は首都圏~北海道航路の夕方便として運航している「さんふらわあ さっぽろ」の深夜便運航を利用しました。深夜1時45分に茨城・大洗を出発して、夜が明けると三陸沖を走っていました。昼の景色を眺めながらお風呂に入ったり、飲んだり食べたり昼寝したり。のんびり過ごせて、船旅好きにはもってこいの運航でした。このクルーズ客船のような「さんふらわあ くれない」でも、あんな昼の船旅ができたら、もう最高でしょう!
(金丸)
日中の明るいうちに海を走って夜に着く乗り方ですね。僕は「デイクルーズ」と呼んでいます。本物のクルーズだと値段が高めなのでちょっと手を出しづらいイメージだけど、毎日運航しているフェリーならスケジュールも組みやすいし、値段も手頃なので嬉しいですよね。「くれない」みたいなクルーズフェリーの船が増えて、そういう乗り方をもっと楽しめたらいいのになぁ。
(中村)
フェリーの役目って本来は物流だから、昼航路は採算があわせにくいかもしれないけど、ぜひやってほしいです。
(金丸)
そういう無理なお願いをしたいくらい「くれない」はすごい船ですよね(笑)。
<編集部コメント>
対談後の2023年5月、「さんふらわあ くれない」および姉妹船「さんふらわあ むらさき」での昼運航実施が発表されました。通常の運航と異なり、2023年7月~11月に数回だけ、昼の瀬戸内海カジュアルクルーズを楽しむことができます。
≫2023年度 昼の瀬戸内海カジュアルクルーズ
トラックドライバーに優しい、休息のひとときを提供する天国!?
(中村)
物流の話が出たので少し話題を変えますけど、船内見学で一般の方は入れないトラックドライバー専用エリアも特別に見せてもらって、トラックドライバーに転職しようかと思いました(笑)。ドライバーの天国じゃないですか。
(金丸)
わかります!ドライバーズルームの快適さに感動ですよ。専用のお風呂や娯楽室に惚れ込みました。お風呂で汗を流して、宴会やって早く寝て、次の日の朝に「行ってきます!」って、絶対活力のもとになりますよね。
(中村)
トラックドライバーのことをよく考えている船だとつくづく思いました。
(金丸)
トラックドライバーの時間外労働規制がかかる物流業界の「2024年問題」と、CO2排出の環境問題を含むモーダルシフト、災害発生時のBCP、観光旅客の課題が「さんふらわあ くれない」によって一気に解決できるかもしれません!瀬戸内海航路110年目にして、ついにそんな船が登場しました。
コスパもタイパもいい、フェリーにおまかせ!
(金丸)
フェリーって「日本最強の公共移動手段」なんですよ。だって、宴会して、風呂に入って、移動中にウロウロできる乗り物ってあります?まぁ、今は船で宴会する人は少ないでしょうけれども(笑)。
(中村)
そうやって好きに過ごしているうちに目的地に着くなんて、他にはないですよね。
(金丸)
さっき船内放送で「別府までの所要時間12時間」と流れたときに、普段、新幹線や飛行機を使っている人は「12時間も!」と思うのだろうけど、フェリーをよく使う僕たちは移動時間の捉え方が違うので「12時間しか!」と思いました。
(中村)
「7時間寝たら、5時間しか船旅を楽しめない」と思っちゃうんですよね。新幹線や飛行機に3〜4時間乗って目的地で1泊してから活動するのも、船に12時間乗って翌朝到着するのも、活動できる時間は一緒ですから。だけど値段を比べると船の方が安い。早く着いても、夜中にやっている観光施設はないので寝るだけですし。
(金丸)
翌朝から活動できるから、最近注目されている「タイパ」ことタイムパフォーマンス(時間対効果)も非常にいいんです。だって、朝の7時~8時に到着して動き出せるのだから、別府の温泉をいくつも回れますよね。これがホテルに泊まったりすると、「ホテルまで」や「ホテルから」の移動に時間を取られます。タイムパフォーマンスが一番いい移動手段はフェリーだと思いますよ。
(中村)
「高速バスでもいいじゃん」という人もいますけど、狭いし、寝られないし、お風呂入れないし、お酒飲んで話せないでしょ?空間の広さと自由度が、フェリーは段違いにいいですよね。
(金丸)
ただの移動手段として考えたら「早く着きたい」と思うのは当然かもしれません。でも、船のクオリティをクルーズ客船に勝るとも劣らないレベルまで高めることで、「もっと乗っていたい」と思ってもらえるように「さんふらわあ」は努力をしているのだと思います。
気軽に自分らしい「カジュアルクルーズ」を
(中村)
金丸さんおすすめのフェリー旅の楽しみ方ってありますか?
(金丸)
フェリーは毎日運航しているので、自分の好きなタイミングと行きたい場所でクルーズをカスタマイズできるところが素晴らしい。毎日出航しているから気楽さもあります。クルーズ客船のように「すごい船だからディナーの服どうしよう」「正装も用意しておこうか」と気負う必要がありません。
(中村)
フェリーに乗っている間の楽しみはやっぱり景色じゃないですか。移りゆく景色をゆっくり眺められたり、自分の住んでいる国を海の上から見られたりするのは幸せなこと。船だと窓やトンネルなどで視界を限定されることなく景色を眺められるし、ドラマチックな朝日や夕日の景色を眺められますから。それって海上で見るからこそ。非日常を感じられると思うんです。
(金丸)
朝日や夕陽はフェリーの必須アイテム!フェリー乗船時に夕陽を見ると、水平線に真っ赤な太陽が触れて「じゅー」と音が出るんじゃないって思う瞬間に出くわすことがあります。他の乗り物でその様子をじっくり見ることはできないでしょう。夕方の空があかね色に染まる様とか、太陽が完全に沈む直前に見えることがあるグリーンフラッシュも、船でないと出会えない景色だと思います。
(中村)
特にビルの立ち並ぶ都会に住んでいると、そんな機会はないでしょうね。景色を見るために船に乗る人もいるくらいですから。大自然のドラマと出会えるのが船旅のいいところです。
「さんふらわあ」ロゴをデザインしたのは?
(中村)
朝日、夕陽といえば、「さんふらわあ」のロゴマーク!これを考えたデザイナーもすごい。
(金丸)
岡本太郎のデザインじゃないかと思って事務所に問い合わせたことがあるんですけど、「違います」と返答がありました。結局わからず仕舞いです。でも、フェリーに乗ったことがない人でも、「さんふらわあ」のことを聞くと船だと知っているからすごいですよね。「クイーンエリザベス」に負けないくらい、船として認知されている気がします。
(中村)
関西だと「九州に行く船」や「さんふらわあの歌」として認知している方が多いです。船のテーマソングが有名になるって面白いですよね。
(金丸)
「さんふらわあ」が有名だからこそ、仮面ライダーシリーズでショッカーに狙われたり、映画「ダイハード」で模型が登場したりするのですね。有名なのも大変です(笑)。
よりどりみどりのオリジナルグッズ
(金丸)
「くれない」のすごいところはまだまだありますけど、最後にもう一つあげるとしたらショップの充実度ではないでしょうか。
(中村)
売っているアイテムが多いですよね。昔はグッズといえばメダルくらいだったのに…。
(金丸)
あの頃から比べると、グッズがかなり増えました。「さんふらわあ」は特に多い!クルーがデザインしたオリジナルタオルとか、オリジナルパッケージの特別な宇佐飴や臼杵煎餅とか、陸上では買えないオリジナルグッズがたくさん。多すぎて何を買えばいいか選べないほどですよ(笑)。
(中村)
オリジナルハンドタオルは数量限定ですぐに売り切れてしまうみたいですね。すごい人気です!
(金丸)
こんなに「すごい」を連呼した新造船って記憶にありません。現時点(2023年1月31日)で「最高の船」と言ってもいいのではないでしょうか!
フェリーを知り尽くす2人も大絶賛の「さんふらわあ くれない」。大阪~別府航路から引退した「さんふらわあ あいぼり/こばると」と比べると、格段に大きくなり、船内も余裕のある印象を受けます。そしてその内装デザインには、「さんふらわあ さつま/きりしま」やクルーズ客船「にっぽん丸」改装時の内装デザインを手がけた渡辺友之氏を起用し、快適なカジュアルクルーズの空間を創り出しています。
この記事や、「さんふらわあ くれない」の徹底チェック記事(パブリックスペース編)・(客室編)をご覧になって、抱いていたフェリーに対するイメージが大きく変わられた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
長年にわたってさまざまな船に何度も乗船してきた金丸さん・中村さんのお話は、決して誇張したものではありません。本当かな?信じられないという方は、ぜひご自身で「さんふらわあ くれない/むらさき」に乗船して、その豪華さ・快適さを体験してみてください。
≫前編はこちら
金丸知好(カナマルトモヨシ)/航海作家
1966年富山県生まれ。日本のフェリーだけでなく外国航路や、中国や韓国の国内フェリーにも乗船経験が豊富。フェリー専門誌「フェリーズ」(海事プレス社)の執筆、「クルーズ」誌(同)に「フェリーdeクルーズ」を連載している。主な著書に「アジアフェリーで出かけよう!」(出版文化社)、「フェリーでGO!」(ユビキタスタジオ)、「超実践的クルーズ入門」(中公新書ラクレ)など。
プニップクルーズ:中村辰美(なかむら たつみ)/イラストレーター
1957年東京生まれ。中学時代の伊豆大島までの船旅で船の魅力にとり憑かれ、船好きのイラストレーター故柳原良平氏の著書に感銘を受け船の絵を描き始める。会社員生活の傍ら、独学で描いた船の絵をネットで投稿しているうちに船舶業界から認められて船専門のイラストレーターとして独立。クルーズ客船のギフト商品、船のパンフレットや広報誌の表紙、船旅雑誌のイラスト記事などのほか、東京海洋大学やクルーズ客船での水彩画教室も実施。2021年に画集「船体解剖図」を出版。年一回、横浜で個展を開催。
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