新造船「さんふらわあ さつま」試乗レポートアイキャッチ

もくじ

2018年5月15日に大阪―志布志航路にデビューした「さんふらわあ さつま」。「さんふらわあ今昔ものがたり」を連載中の航海作家カナマルトモヨシさんが、さっそく大阪~志布志往復を現地0泊船中2泊の「弾丸クルーズ」で体験してきました。これまでの「さんふらわあ」とどこが違うのか、どう進化したのか。フェリーやクルーズ船を知り尽くした専門家ならでは視点でレポートします。
※内容は取材時のものです。

広さと開放感あふれる船

さんふらわあターミナル(大阪)第2ターミナルへ無料シャトルバスで移動する。新造船「さんふらわあ さつま」(以下、新さつま)の姿がどんどん大きくなってくるのに比例して、これからの乗船への期待もマックスに近づいていく。

広さと開放感あふれる船1
志布志航路専用の第2ターミナルは昨年1月からサービス開始。
停泊するフェリーと同じく、赤い太陽を外壁にデザインしたターミナルも初々しい空気に包まれている

エスカレーターを上がって、エントランスホールにあるアトリウムへと記念すべき第一歩を踏み出す。天井に取り付けられたプロジェクションマッピングが演出する映像と音の演出に、まずは目を奪われる。

と、ほとんどの人はそうなるだろう。

しかし、筆者が抱いた強烈な第一印象は「とても広々とした船だなあ」ということである。

新さつまは天窓のほかエントランスホールの左右両舷に大きな丸窓が付いているためか、先代「さんふらわあ さつま」(2018年6月現在「さんふらわあ さつま1」)だけでなく、他のさんふらわあと比較しても船内が広々と感じられる。

これは2層吹き抜けプロムナードにしているため、天井の高さを意識させる北海道航路の新造船「ふらの」「さっぽろ」で得たのとは対照的な感覚である。

広さと開放感あふれる船2
開放的なプロムナードには座席も多い

プロムナードのスペースも、他船より格段に広くとってある。週末便ということもあり、ここでピアノコンサートなどが開催された。空間に余裕のある新さつまだと、まるでイベント自体の規模が大きくなったかのような錯覚に陥る。

プロムナード以外にも、各デッキ(三層)にくつろいで座れるイスやスツールが多く設けられており、座りたいのに座れないという人が発生しにくい。

広さと開放感あふれる船3
先代船よりもかなり広いレストラン。ビュッフェの位置も絶妙だ

プロムナードの突き当りにはレストランがある。レイアウトは北海道航路のレストランよりも大分航路のそれに近く、船尾にも広くスペースがとられている。

広さと開放感あふれる船4
奥の右側もレストランスペースが広がる。右側がビュッフェコーナーなので動線が整理されている

しかもビュッフェコーナーやリカーコーナー(アルコール飲料販売スペース)が、乗客の主要動線となる通路とは独立した空間にあり、食事をチョイスする人と席を探す人の混線渋滞が発生しないよう工夫が凝らされている。

空間の広さと同時に、テーブルや座席の多さも新さつまレストランの特長といえる。大阪発はほぼ満船だったが、空いたテーブルを求めてレストラン内を右往左往する乗客の姿は皆無だった。

アトリウム~プロムナード~レストラン。新さつまの船内は、開放感にあふれていた。

プロジェクションマッピング効果で、雨でも星空教室

プロジェクションマッピング効果で、雨でも星空教室1
プロジェクションマッピングのショーは乗船時と、午後7時50分から10分間行われた

さんふらわあ初。いや、日本のフェリーはおろかクルーズ客船にも前例のないプロジェクションマッピングを備えた新さつま。冒頭では「広さが実感できる船」と言ったが、このプロジェクションマッピング導入で、空間の高さも感じられるフェリーとなっている。

乗船時と夜10分間のショータイム。乗客の視線は最上階のさらに上に集中する。そこでは目くるめくような映像が音楽に合わせて華々しく展開する。

ずっと見続けていたために首がちょっと痛くなる。
そんなところでも、この船の空間の高さを実感するというわけだ。

プロジェクションマッピング効果で、雨でも星空教室2
雨天でもプロジェクションマッピングで満天の星が眺められる

また、大阪出港後に大粒の雨が落ちてくるあいにくの天気だったが、そんな日でも星座を映し出すプロジェクションマッピングを活用した星空教室がアトリウムで実施できる。
これなら空模様を気にすることもない。

プロジェクションマッピングは華やかさを演出するだけではなく、天に突き抜ける開放性をも感じさせる効果を持っているのだ。

プロジェクションマッピング効果で、雨でも星空教室3
展望デッキにも4つのスツール。座ったり寝そべったりしながら海や星空を眺めることができる

ツーリストとプライベートベッドの進化系キャビン

今回は、往路でスーペリア、復路ではプライベートシングルを利用した。いずれも窓こそないが、おひとり様用の個室である。

個室の増加は、いまや日本のフェリーではスタンダード。とりわけ新さつまにおける個室化は、国内フェリーの最先端をゆく。最安値カテゴリーのツーリスト、いわゆる和室の大部屋でさえ、各マットの頭上には読書灯とコンセントがあり、左右両側にあるカーテンで仕切ることで準個室となる。

ツーリストとプライベートベッドの進化系キャビン1
新さつまで初お目見えしたプライベートシングル。
9部屋と7部屋の2キャビンあり、男女別に分けられる

さんふらわあ初の「新案」キャビン・プライベートシングルは、ツーリストとプライベートベッドの進化系と言えるだろう。ひとつのキャビンに、アコーディオンカーテンが入口の個室が並ぶ。いわば「個室の相部屋」という、従来のフェリーにはなかった新感覚キャビンだ。

ワンランク上のスーペリアのようにシャワー・トイレ付きで冷蔵庫完備というわけにはいかないが、テレビ付きで音漏れ防止用のイヤホンに使い捨てスリッパ・歯ブラシ・さんふらわあオリジナルタオルなどアメニティも充実。

スーペリアもそうだったが、エンジン音が全く気にならない静けさでぐっすり眠れる。

カプセルベッド風のプライベートベッドに比べ、縦にも横にも自由に使える空間が広く、シングルの船旅を満喫するにはもってこいである。

ツーリストとプライベートベッドの進化系キャビン2
こちらも新さつまから新登場のプライベートベッド(グループ)

大分や北海道航路の「さんふらわあ」にもプライベートベッドはあるが、新さつまからグループ用とも言うべきカテゴリーが新たに加わった。

それがプライベートベッド(グループ)。こちらは4ベッドで1区画の個室となっている。

家族や気の合う友達同士など水入らずのグループ旅行に最適。こちらもプライベートベッドの、もう一つの進化系だろう。

ブルーハイウェイラインの歴史を継承する船

プロジェクションマッピングに気をとられ、上ばかり見とれてしまいがちなエントランスホール。ここで見逃してはいけないのが柳原良平画伯(1931~2015年)の描いた先代「さんふらわあ さつま」デビュー時のイラストである。

ブルーハイウェイラインの歴史を継承する船1
乗船したら見てほしい、先代さつまイラスト。コスタ・デル・ソルなど施設につけられた名前からわかるように、「南スペインの風」をテーマにした内装だった

1993年デビュー、そして25周年の今年引退。先代が産声を上げた当時の社名はブルーハイウェイライン、だった。そして2009年から現在のフェリーさんふらわあ(2023年10月より商船三井さんふらわあ)の船隊に加わっている。

新さつまでは、同じ造船所(JMU磯子)生まれである「ふらの」「さっぽろ」とのデジャヴ(既視感)を引き起こしがちだ。例えば、船型のソファやキッズルーム、4か国語(日英中韓)対応のデジタルサイネージ、さんふらわあ記念撮影パネル、ドッグランなどなど。

だが、両者の大きな違いは、ふらの&さっぽろが「北海道航路初のさんふらわあ自前のフェリー」(※旧さっぽろ&ふらの、現だいせつ&しれとこは他社での建造)なのに対し、新さつまは「さんふらわあブランドを確立したブルーハイウェイラインの歴史を引き継ぐフェリー」という点だ。

ブルーハイウェイラインの歴史を継承する船2
ブルハイのシンボルマーク

先代さつまのイラスト右下に、3本の青い線による「ブルーハイウェイライン(ブルハイ)」のシンボルマークが残されているところにも注目したい。

志布志航路では先代さつまから、従来の「さんふらわあ」の太陽マークおよび胴体前方と後方の上部に水色のラインが入るカラーリングが採用された。新さつまではそれがなくなったため、ブルハイの面影は一掃されたように思えた。

しかし、そうではない。このイラストにきっちりブルハイの名は残されているのである。
新さつまに、「さんふらわあ」ブランド継承を託す、強い思いを見た。

ブルーハイウェイラインの歴史を継承する船3
志布志航路に就航する船のみに設置されていた限定1室のファースト「ぐりぶーとさくらの仲良し船旅ルーム」。「ぐりぶー」と、お嫁さんの「さくら」は鹿児島のご当地キャラ。このレアキャビンも先代から新さつまに受け継がれている

「フェリーdeクルーズ」時代の到来告げる新さつま

筆者がかねてから提唱してきた「フェリーde(で)クルーズ」。

新さつまのデビューで、気軽にフェリーdeクルーズを満喫できるカジュアルフェリーの時代がようやく到来したな、という思いがした。

「フェリーdeクルーズ」時代の到来告げる新さつま1
週末便ではミュージックイベントを皮切りにエンタメ三昧のナイトクルーズ!

今回は往復ともにイベント盛りだくさんの週末便乗船だったことで、「カジュアルクルーズフェリー」新さつまの神髄にたっぷり触れることとなった。

19時のミュージックイベントに始まり、プロジェクションマッピングショーと星空教室、21時からはヨガイベントとエンターテインメント目白押し。2時間30分にわたるエンタメ三昧の新さつまナイトクルーズだ。

これはもはや単なる移動手段ではない。クルーズシップだ。クルーズ客船では、「退屈どころか、日常よりもかえって忙しい」くらい多彩なイベントを楽しんでいるうちに1日が過ぎていくものだ。新さつまでも、それと同じ時間が流れていった。

「フェリーdeクルーズ」時代の到来告げる新さつま2
新さつまで錦江湾上から桜島を眺めてみたい…

ただ、一つだけ残念なことがある。こんな素敵なカジュアルクルーズフェリーで、片道15時間のみの乗船ではもったいない。何が言いたいのかというと、もっと長く乗っていたい船なのだ。

ここで一つ提案。週末に「昼の瀬戸内感動クルーズ」の鹿児島版「昼の錦江(鹿児島)湾感動クルーズ」を、年に何度か企画していただけるとうれしい。

志布志から大隅半島に沿って本土最南端の佐多岬まで南下し、薩摩富士こと開聞岳の山容を眺めつつ、錦江湾へ入ってゆく。左手に知林ヶ島や指宿、右手に大隅半島、やがて眼前に桜島を見てから志布志に引き返す。

カジュアルクルーズフェリー・新さつまの魅力がさらに増すと思うが、いかがだろうか?

充実の設備とサービスで、快適な船旅を!
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