もくじ

茨城県・大洗と北海道・苫小牧を結ぶ航路を運航する「さんふらわあ」。約17~19時間におよぶ船旅では、船内でゆったりとした時間が過ごせます。
本好きの方はもちろん、ふだんあまり本を読まないという方にも、読書はおすすめの船内での過ごし方のひとつです。特に、これから向かう目的地が舞台となっている小説を読み、登場するスポットや著者ゆかりの場所を巡る「聖地巡礼」の旅に出かければ、いっそう楽しみが深まります。
この記事では、首都圏~北海道航路の「さんふらわあ」が寄港する大洗と苫小牧を中心に、編集部おすすめの本を紹介します。

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※本記事では人名の敬称を省略しています。
※画像で紹介している書籍の一部は、絶版となっているもの、表紙が現在のものとは異なるものがあります。

≫国内に4つ「さんふらわあ」の航路

【茨城県・大洗町】
「ガルパン」も登場する、大洗町の良さが詰まった現代小説

茨城県といえば、都道府県魅力度ランキングで長年47位(最下位)だったことで有名ですが(2022年は最下位脱出)、実際にはさまざまな魅力があふれています。中でも、首都圏~北海道航路の「さんふらわあ」の寄港地である茨城県・大洗町の魅力が書かれた小説『大洗おもてなし会議(ミーティング) 四十七位の港町にて』を読めば、きっと大洗の街を散策したくなることでしょう。
著者は、茨城県水戸市出身の矢御(やお)あやせ。父親が土日に漁船の船頭を大洗でしていたことから、大洗が舞台の物語を書くことにしたそうです。

著:矢御あやせ『大洗おもてなし会議(ミーティング) 四十七位の港町にて』(マイナビ出版 ファン文庫)
※電子書籍あり。

大洗で生まれ育った涼子は、口下手で笑顔をつくることが苦手。祖母が営む民宿を継ぎたいと思っているが、接客に自信が持てない。東京からやって来た大食漢の医者・加賀先生との出会いから、次第に涼子に変化が…。1年を通した物語の展開の中で、大洗の人たちの「おもてなし」の心や優しさが描かれています。
物語の中では、ガルパンの聖地巡礼のことが再三出てくるほか、「みつだんご」や「岩牡蠣」、「あんこう鍋」、「生シラス丼」、地元の銘酒「月の井」など、実際の大洗グルメもたくさん登場します。加賀先生が連れてきたガルパン好きのイタリア人が探す「丸くてボーノ」とは一体何か?

また、涼子はサーフィン教室のアルバイトもしています。大洗には1年を通して波に乗れるサーフスポットもあるので、北海道のサーファーの方は「さんふらわあ」で大洗までサーフトリップしてみてはいかがでしょうか?
読んでいるうちに、ぜひ大洗に行ってみたい、大洗に住んでみたいと思えてくる物語です。

【北海道・苫小牧市】
馳星周が描く苫小牧市周辺の架空都市を舞台にしたハードボイルド小説

雪炎』は、北海道・苫小牧市に隣接する架空都市「道南市」での原子力発電所の推進/廃止を争点とする市長選を舞台にした、500ページを超えるハードボイルド小説。著者は、北海道浦河郡で生まれ、苫小牧東高校を卒業した馳星周(はせせいしゅう)です。

馳星周『雪炎』(集英社文庫)※電子書籍あり。
著:馳星周『雪炎』(集英社文庫)
※電子書籍あり。

2011年3月11日に起きた東日本大震災後の冬。震災後に停止した原発の再稼働/廃炉を巡り対立する市長選。主人公で元公安警察官・和泉の旧友が、廃炉を掲げて立候補し、和泉はその選挙戦を手伝うことに。さまざまな利権が絡みあい、原発推進派からの熾烈な選挙妨害に対抗する和泉。しかし、選挙スタッフが殺されてしまいます…。
読み応えのある長編ハードボイルド小説ですが、ストーリーにグイグイ引き込まれて読み進められるのは、馳星周の力量でしょう。

架空の「道南市」の隣に苫小牧市があるという設定。「国道235号を北西に向かう。(中略)左手に広大な湿原が見えてくる。」といった描写があることから、日高市や馳星周自身の出生地である浦河郡あたりを「道南市」に設定していると思われます。作中の苫小牧市は、実在する苫小牧市と同様に工業都市として描かれています。

物語の設定が、2011年末から翌年1月と真冬の時期のため、作中に寒さを表現する言葉がいくつも登場しますが、物語と同じ地域で生まれ育った著者だからこそのリアルな表現といえるでしょう。また、元競走馬が登場するのも、日高市周辺を連想させます。

【北海道・苫小牧市】
苫小牧工業高校の寮で過ごした3年間を記した自伝的青春小説

地の音』は、1987年に映画化された『光る女』(監督:相米慎二、出演:安田成美・武藤敬司ほか)の原作者でもある小檜山博(こひやまはく)が書いた自伝的青春小説です。
小檜山博は北海道滝上町の生まれ。中学を卒業すると、苫小牧工業高校に入学します。『地の音』は、親元を離れて寄宿舎で過ごした自身の高校生活3年間をいきいきと描いています。

著:小檜山博『地の音』(集英社)
※販売は終了しています。

貧しい農家で生まれ育った主人公は、家族に無理を言って実家から離れた苫小牧工業高校に進学します。寄宿舎は全員男子学生。お金がなく自炊のため常に空腹を感じる日々を過ごします。同室の友人や先輩との関係、女性へのあこがれ、自分のために借金をしてくれている父親、生活を犠牲にして学費を工面してくれている兄夫婦など、主人公を取り巻く環境と心の動き、家族への思いなどがつぶさに書かれています。
『地の音』では、小気味よいリズミカルな文体で主人公の心情が表現されており、その一節は中学生向けの試験問題にも採用されています。

著者が高校生だった1953年~1956年と現在では、苫小牧の街並みはすっかり様変わりしていますが、小説中に幾度となく登場する樽前山の姿は変わっていません。また、苫小牧工業高校の場所も、当時とは変わっています(1983年に現在の場所に移動)。当時、苫小牧工業高校があった跡地は、苫小牧市立中央図書館や苫小牧市サンガーデン、苫小牧市立美術博物館などがある出光カルチャーパーク(苫小牧市民文化公園)となっており、その一角には「地の音よ 樽前山よ わが青春」と刻まれた小檜山博文学碑が建てられています。

残念ながら『地の音』は現在絶版となっており、電子書籍化もされていません。図書館や古本で見つけたら、ぜひ読んでみてください。男子高校生の無垢な感情が伝わってくる良作です。

【北海道】
渡辺淳一自身が展示内容を構成・企画した文学館

渡辺淳一文学館外観。設計は安藤忠雄氏。

苫小牧に限らず、北海道全域に物語の舞台となったエリアを広げると、数えきれないほどの小説が存在します。また、北海道出身の作家も数多くいます。中でも、札幌市出身で北海道大学から札幌医科大学に進んだ医師であり作家の渡辺淳一は有名です。故郷である札幌市には、「渡辺淳一文学館」があります。生原稿や愛用品のほか、映像化された作品のポスターなどが展示。渡辺淳一作品が読める図書室や、軽食やお酒も味わえる喫茶室などが設けられています。

渡辺淳一文学館2階の展示室。
渡辺淳一文学館2階の展示室。

渡辺淳一の初期の作品や自伝的作品では、札幌が登場する物語がいくつもあります。また、何度もドラマ化された小説『無影燈』では、主人公が最期の場所として支笏湖を訪れます。
秋の終りの旅』や『死化粧』には北海道が舞台の短編が収められているほか、『流氷への旅(上・下)』はオホーツク海に面した紋別の流氷をモチーフにした長編小説です。

左から、著:渡辺 淳一『秋の終りの旅』(講談社文庫)
『流氷への旅(上)』著:渡辺 淳一 KADOKAWA/角川文庫
『流氷への旅(下)』著:渡辺 淳一 KADOKAWA/角川文庫
『死化粧』著:渡辺 淳一 KADOKAWA/角川文庫
※いずれも販売は終了しています。

渡辺淳一文学館

住所
北海道札幌市中央区南12条西6丁目414
電話番号
011-551-1282
開館時間
夏期(4~10月)9:30~18:00、冬期(11~3月)9:30~17:30
※入館は閉館の30分前まで
休館日
月曜日(祝日の場合は翌日)

紹介した書籍の中には、電子書籍化されているものもありますので、荷物がかさばったり重たくなったりせずに何冊も旅のお供に持っていけます。また、このほかにもそれぞれのエリアを舞台にした小説は多数存在します。その土地の書店で見つけるのも楽しいものです。
「さんふらわあ」に乗船して、お気に入りの小説を読み、物語の舞台の地へ。一人でも、気の合う仲間とでも、「さんふらわあ」で読書旅行に出かけてみませんか。

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船内でたっぷり読書をして、
物語に登場するスポットを巡る
聖地巡礼の旅を楽しもう!
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