フェリーで「読書旅行」:関西・九州編

もくじ

関西~九州を結ぶ「さんふらわあ」の航路は、大阪~別府、大阪~鹿児島・志布志、神戸~大分の3つ。約12~15時間におよぶ船旅では、「さんふらわあ」の船内でゆったりとした時間が過ごせます。
本好きの方はもちろん、ふだんあまり本を読まないという方にも、読書はおすすめの船内での過ごし方のひとつです。特に、これから向かう目的地が舞台となっている小説を読み、登場するスポットや著者ゆかりの場所を巡る「聖地巡礼」の旅に出かければ、いっそう楽しみが深まります。
この記事では、関西~九州航路の「さんふらわあ」の寄港地ごとに、編集部おすすめの本を紹介します。

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※本記事では人名の敬称を省略しています。
※画像で紹介している書籍の一部は、絶版となっているもの、表紙が現在のものとは異なるものがあります。

≫国内に4つ「さんふらわあ」の航路

【大分県・大分市】
大分市が舞台。2022年にアニメ映画化もされた『僕愛』『君愛』

僕が愛したすべての君へ』は、大分県豊後大野市出身の乙野四方字(おとのよもじ)の小説。主人公の高崎暦たちが、並行世界の間を行き来(パラレル・シフト)する、大分市内が舞台のSFラブストーリーです。
実はこの物語、もうひとつ別のストーリーである『君を愛したひとりの僕へ』という小説と同時に刊行されています。この記事を書いている編集部スタッフは、『僕が愛したすべての君へ』(通称『僕愛』)を先に読んだのですが、『君を愛したひとりの僕へ』(通称『君愛』)も読みたくなり、『僕愛』読了後すぐに『君愛』を購入しました。

左から、乙野四方字『君を愛したひとりの僕へ』と『僕が愛したすべての君へ』(ハヤカワ文庫)※ともに電子書籍あり。
左から、著:乙野四方字『君を愛したひとりの僕へ』と『僕が愛したすべての君へ』(ハヤカワ文庫)
※ともに電子書籍あり。

『僕愛』と『君愛』は、それぞれ物語として独立しています。しかし、2作品とも読むと両方の物語が交錯し、絡み合い、互いの物語を支えあっていることがわかります。どちらの小説を先に読むかで、読後の感想が変わるかもしれません。

2022年10月、『僕愛』と『君愛』2作品同時にアニメ映画が公開されました。映画化に合わせて各シーンで登場する大分市内のスポットを紹介した「聖地巡礼マップ」が制作されており、文庫の表紙イラストに描かれている大分市中心部の昭和通り交差点をはじめ、弁天大橋、大分憩いの道など、約20か所が掲載。映画を見た多くのファンが、映画と同じアングルで写真を撮ってSNSに投稿しています。ちなみに映画『僕愛』では、大分港近くの豊海地区の堤防がモチーフとして描かれています。

「さんふらわあ」船内で『僕愛』『君愛』を読んで大分市内の聖地巡礼をすれば、物語の世界観に浸れること間違いなしでしょう。

【大分県・臼杵市】
臼杵にある、夏目漱石門下の女流作家・野上弥生子の生家

大分港・別府国際観光港から車やJRで1時間ほどの臼杵市は、『海神丸』『真知子』『秀吉と利休』などの作品で知られる野上弥生子の出身地です。現在も臼杵市で焼酎や清酒を製造している老舗の蔵元・小手川酒造に生まれ、14歳で上京しました。
生家である小手川酒造の一部は「野上弥生子文学記念館」となっており、99歳で亡くなるまで執筆をつづけた弥生子が愛用した品々や、夏目漱石から送られた手紙などが展示されています。二王座歴史の道からすぐの場所なので、臼杵石仏や稲葉家下屋敷などの観光と一緒に訪れてみてはいかがでしょうか。

城下町臼杵にふさわしい、歴史のある建物。
城下町臼杵にふさわしい、歴史のある建物。
野上弥生子が残した品約200点を展示。

野上弥生子文学記念館

住所
大分県臼杵市浜町538
電話番号
0972-63-4803
開館時間
9:30~17:00
休館日
年中無休

【鹿児島県】
わずか2年の居住ながら鹿児島を愛した向田邦子

テレビドラマ『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『阿修羅のごとく』などの脚本や、直木賞受賞作を含む短編小説集『思い出トランプ』、唯一の長編小説『あ・うん』などを残した向田邦子。東京生まれの彼女は、鹿児島を「故郷もどき」と呼んでいました。小学校3年生から5年生まで鹿児島で過ごした向田邦子は、鹿児島を気に入っており、第二の故郷と感じていたためです。

左から、向田邦子『思い出トランプ』(新潮文庫刊)と向田邦子『あ・うん』(文春文庫)※ともに電子書籍あり。どちらも昭和の時代背景の中で人間の心理を巧みに表現した向田邦子の代表作。
左から、著:向田邦子『思い出トランプ』(新潮文庫刊)と著:向田邦子『あ・うん』(文春文庫)
※ともに電子書籍あり。
どちらも昭和の時代背景の中で人間の心理を巧みに表現した向田邦子の代表作。

小説ではありませんが、向田邦子の代表的なエッセイ集『父の詫び状』には、鹿児島の思い出を綴ったエッセイがいくつか載っています。
『記念写真』という話では、鹿児島市平之町にあった当時の住居の庭で家族写真を撮った思い出が書かれています。現在、その住居跡には記念碑が建っています。
食べ物に関する話も多く、『細長い海』では鹿児島の海水浴場で食べた「じゃんぼ」(鹿児島の郷土菓子「じゃんぼ餅」)が登場し、『薩摩揚』では「鹿児島で食べたあの薩摩揚でなくてはならない」と書いています。

左から、著:向田邦子 新装版『眠る盃』(講談社文庫)と著:向田邦子『父の詫び状』(文春文庫)
※ともに電子書籍あり。

小学生の多感な時期を過ごして以来、向田邦子は38年間鹿児島を訪れることはありませんでした。しかし、不慮の航空機事故で亡くなる2年前の1979年2月に、2泊3日で鹿児島を訪れ、思い出の地を巡りました。その旅行の顛末は、向田邦子2冊目のエッセイ集『眠る盃』に収録された『鹿児島感傷旅行』にまとめられています。
かつての住居跡や城山周辺、家族で訪れた天文館や山形屋デパートなどを回りますが、少女時代に見た景色は時代を経て大きく変わっていました。しかし、旧友や恩師と再会し、思い出話に花を咲かせます。そして、「あれも無くなっている。これも無かった。結局変わらないものは人。そして、火をはく桜島であった。」(引用:『鹿児島感傷旅行』より)と記しています。

没後40年以上が経過した向田邦子ですが、ファンの中には彼女にゆかりのある鹿児島の各地を回る聖地巡礼を行う方が、今なお多くいらっしゃいます。

かごしま近代文学館外観。童話や絵本の世界を体験できる「メルヘン館」を併設。
かごしま近代文学館外観。童話や絵本の世界を体験できる「メルヘン館」を併設。

また、鹿児島市内にある「かごしま近代文学館」には、向田邦子に関する数多くの資料などを展示したスペースがあり、彼女の作品の世界観や彼女自身のライフスタイルを身近に感じられます。
向田邦子が残したエッセイを「さんふらわあ」船内で読んで鹿児島を訪れると、彼女が「故郷もどき」と称した鹿児島の良さがより一層理解できるのではないでしょうか。

文学館2階にある「向田邦子の世界」展示コーナー。ファンなら一度は訪れたい。
文学館2階にある「向田邦子の世界」展示コーナー。ファンなら一度は訪れたい。

かごしま近代文学館

住所
鹿児島県鹿児島市城山町5-1
電話番号
099-226-7771
開館時間
9:30~18:00 ※入館は17:30まで
料金(入館料)
常設展観覧:大人300円、小・中学生150円
※特別展の料金については別に定めます。
休館日
火曜日(休日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月1日)

【大阪府、兵庫県・神戸市】
枚挙に暇がない大阪・神戸が舞台の小説

大阪や神戸を舞台にした物語は、挙げればきりがありません。中でも、編集部スタッフのおすすめ小説をご紹介します。

大阪では、歴史物や時代物の小説が多く書かれています。大阪城が舞台の歴史小説や、江戸時代の浪花商人を取り上げたものなど、皆さんにも思い当たるものがあるでしょう。
近・現代の小説では、宮本輝の『道頓堀川』や山崎豊子の『白い巨塔』『花のれん』、有栖川有栖の『幻坂』などが挙げられます。これら3人の著者には、大阪や関西を舞台にした物語が多数あります。
近年の小説では、西加奈子の第24回織田作之助賞作『通天閣』は、コテコテの大阪感がありながら、ほっこりして笑えて泣ける作品です(織田作之助の『夫婦善哉』も大阪が舞台の代表的な作品)。
大阪・靱公園のサンドイッチ専門店を舞台に繰り広げられる5つの話からなる谷瑞恵の『めぐり逢いサンドイッチ』は、優しく愛おしい物語。大阪にはフルーツサンドやたまごサンドで有名なお店もあるので、読みながらサンドイッチを頬張るのもいいですね。

左から、著:村上春樹『風の歌を聴け』と『1973年のピンボール』(講談社文庫)
※ともに電子書籍あり。
村上春樹初期3部作のうち第1弾と第2弾。

神戸では、関東大震災後に関西に移住した文豪・谷崎潤一郎の『細雪』や、兵庫県育ちで神戸の高校を卒業後に早稲田大学に入学した村上春樹のデビュー作である『風の歌を聴け』などが有名でしょう。『細雪』は何度もドラマ化・映画化されています。『風の歌を聴け』は、実在の場所をモチーフにした描写が多数登場するため、“聖地巡礼”するハルキストは少なくないようです。
また、出生地が神戸である宮本輝の『花の降る午後』は、主人公の女性が亡き夫から継いだ神戸のフランス料理店が舞台。こちらもドラマ化や映画化がされています。
近年の小説では、神戸の洋菓子店が舞台でパティシエ見習いが主人公の『ラ・パティスリー』。著者はSF小説で知られる上田早夕里。登場するお菓子がどれもおいしそうで、神戸のスイーツ店をはしごしたくなってしまいそうです。

紹介した書籍の中には、電子書籍化されているものが少なくないので、荷物がかさばったり重たくなったりせずに何冊も旅のお供に持っていけます。また、このほかにもそれぞれのエリアを舞台にした小説は多数存在します。その土地の書店で見つけるのも楽しいものです。
「さんふらわあ」に乗船して、お気に入りの小説を読み、物語の舞台の地へ。一人でも、気の合う仲間とでも、「さんふらわあ」で読書旅行に出かけてみませんか。

≫大洗・北海道編はこちら

船内でたっぷり読書をして、
物語に登場するスポットを巡る
聖地巡礼の旅を楽しもう!
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