もくじ
旅の手段はいくらでもあるのに、なぜフェリーを使うのか……。そこには十人十色のストーリーがあるはず。今回は大阪発・志布志行き、就航したばかりの「さんふらわ さつま」に乗り込み、乗客の皆さんに伺いました。(2018年6月取材)
古巣への郷愁に誘われて……
乗船手続き後すぐのラウンジで、さっそくお弁当を広げていたお二人。
「この歳だとバイキングは、よう食べきれんで」
もともと大阪に住んでいたそうですが、10年ほど前からIターンで鹿児島の温泉付き住宅で暮らしているそう。
「のんびりさせてもらってます。ありがたい話です」と奥様。
「だけどたまに懐かしくなるのよねぇ」
だから夫婦の旅は、自然と関西圏が多くなる。ちょっとした里帰りの気分らしい。そしてご主人は大の船旅好き。
「若い時から旅好きやったねえ。お金は残さんと思い出だけ残してますわ」
「さんふらわあ」にとっても“お得意様”。
「今年も、もう3回目や」
一方、奥様は飛行機派。
「あまり時間がかかるのは……」
だけど今回、船旅を選んだのは、「今回は新造船のあれやから、一回乗ってみようや」と奥様を誘ったとのこと。0泊3日の「弾丸フェリー」を利用して、大阪万博のアジサイと舞洲のユリを堪能してきた帰りだそうです。
「万博やってたころ近くに住んでてね。お客さんを泊めたりしましたわ」
そんな懐かしの大阪。朝早くから動くのは大変そうですが、「体力に自信があるうち、動けるうちにあっちこっち行こう」と決めているそう。
お二人にとって「さんふらわあ」は、旅と里帰りに欠かせない“足”のようです。
パパの誕生日にちょっと贅沢なプレゼント
夜のレストランバイキングが開くのを、ロビーで待っていた東田さん家族。
今日はなぜ「さんふらわあ」に?
「夫が今月誕生日なので、そのお祝いにみんなで鹿児島に行きたいねって。調べたら鹿児島行きの新造船があるって知って……」
なんと部屋はスイートルーム。奮発しましたね!
「まあでも、交通費と宿泊費を兼ねてますから」
いかがですか、ご主人?
「まるでホテル。船じゃないみたい。バルコニーがすごく気持ち良いですね。いやほんと、こんな誕生日初めてです」
九州には泊まらずに、一日ドライブして弾丸で大阪に戻る予定。
「フェリーは車ごと乗り込めるのがいいですね。船まで来るのも楽だし、向こうについても楽だし」
「共働きなので、夕方出る『弾丸フェリー』なら会社を休まずに行けるからいいですよね。帰ってもまだ日曜だから家の片付けもできるし」
「さんふらわあ」は、共働き家族の強い味方のようです。
船旅はいつもの旅より盛り上がる⁈
レストランで生ビール片手に盛り上がっていた紳士のグループ。
皆さんどんなお仲間で?
「大阪高等技術研修所という夜学で学んだOB同士の集まりですわ。だけどみな異業種で年齢も卒業年もバラバラ。研修所はもう無うなったけど、今も年に数回集まって色々“勉強会”してるんです」
今回は「さんふらわあ」の新造船ができたというので乗ってみたのだという。総勢17人の大所帯。
「ものすごい感激してますわ。40年前に乗ったことがありますけど、ぜんぜん違いますね。なんやこのおしゃれな雰囲気!」
「そう。氷もタダやし」
「団体部屋も今は一人ずつルームキーもらえて、専用のコンセントも」
「そう。氷もタダやし」
「料理もおいしい。しかも通常2,000円のところシニアは1,650円や。お釣りでビール一杯飲めるがな」
「そう。氷もタダやし」
まるで吉本新喜劇のようなやりとり。さすが大阪のおっちゃんはオモロイ!
お役目ご苦労様です!
吹き抜けロビーのソファでくつろいでいたお三方。実はレストランで会った賑やかな4人と同じ、大阪高等技術研修所のOB仲間(と奥様)だそう。
「私ら幹事と会計係でして……」
なるほど、しばし重責から逃れてリラックスというわけですね。中谷さんは塗料会社の元社員、奥谷さんは鉄工所を経営しているそうで、「この新造船はいいですねえ。新しいのに全然塗料や接着剤の匂いがしない。よっぽどいいのを使ってるんでしょう」とさすがチェックするところが違います。
中谷さんの奥様は、「さんふらわあ」の大分・別府航路をよく利用されていたとか。
「市内の観光バスや昼食までついたツアーがあったでしょう。あれはよかったわあ。ああいうのを志布志でもやって欲しいわ」
今回はシャトルバスで鹿児島中央まで行き、そこから町巡りバスで周遊する予定。残念なのは航海中、雨で外に出られないこと。
「天気はあいにくだけど、新造船に乗れただけでもうれしいですわ」
いつか二人で……
ロビーで一人、薩摩焼酎のお湯割で晩酌中の中村さん。
鹿児島から『弾丸フェリー』で関西方面に遊びに行き、その帰りだそう。
「今回は京都へ行ってきました。ほんと奥が深い。何回行っても飽きがこない ですね」
関西圏への旅はもっぱらフェリー。
「定年退職して時間はたっぷりあるんでね。今回はツアーなんですけど、大阪港ついたらバスが待っててくれて、すごい便利でしたわ。いつかは家内と、と思っているんですが……」
奥様、病院関係の仕事をしていて、まとまった休みが取りづらいのだそう。
「だからまあ、練習というか、どうすれば家内が喜ぶか、下見って感じですね」
旅は「寝るところ」「食べるところ」「トイレ」の3つが大事だという中村さん。
「さんふらわあ」の旅、奥様も気に入ってくれるといいですね。
普通じゃできない旅を!
新造船さつまのパネルの前で船長服に身を包み、和気あいあいと写真撮影している3人。
いやぁ、楽しそうですね!
「だってこれに乗りたくて来たんだもん!」
皆さん、静岡県の商工会議所のOB仲間。今でも年に1回くらい集まって旅行しているそう。
「企業の経営者が多いから、付き合いとかでいろんな所に出かけてます。だからこの親睦旅行は、そういう旅行ではできない経験をしようというのが合言葉なんです」
今回は鹿児島まであえて船で行ってみようという企画。静岡空港から直行便が飛んでいるにもかかわらずです。大阪までは新幹線で来たそう。そして新造船というのも理由の一つ。
「フェリーが新しくなるのって20年に1度だそうじゃないですか。そりゃ乗ってみないと!」
会社経営をしているとなかなか休みがとれないので、旅程が金曜の午後から日曜までで済む『弾丸フェリー』も持ってこいだったそう。
さて、船旅は始まったばかりですが、早くもご満悦の様子。
「高速バスに乗るのと違って、フェリーは横にもなれるし、お酒も飲めるからいいですよね。今夜も皆で朝まで飲み明かすつもりです」
いいですね〜。でも飲み過ぎにはご注意を!
船から見る星空っていいですよ〜
「さんふらわあ」に乗り込んで、夜の「星空教室」の講師をしている田島さん。
今回も晴れていれば甲板に出て本物の星空の下で行う予定でしたが、あいにくの雨。そこで、吹き抜けの天井をスクリーンに、星空を投影しての開催となりました。
「フェリーで星を見るのは、空がとても広いのでいいですよ。そういう空は山のてっぺんや草原、砂漠にいかないとありませんが、船に乗れば簡単です。」
「昔は星を見ながら航海。船の上で星を見るというのは人間がやってきた営みの一つです。星を見て季節の移り変わりも感じていたので、じっくり星を見るというのは、感覚を元に戻すというか、人間の本能的に大切なことじゃないかと思うんです」
オススメは“自分で星座を作る”こと。
「一般的に星座は88ありますが、これは100年くらい前に世界共通で使えるよう天文学者が決めたもの。他人が考えたものって覚えづらいですよね。自分が見たままに楽しめばいいんです」
田島さんのオリジナル星座に「富士山」というものがあり、山頂が双子座の1等星と2等星、左側がこいぬ座のプロキオン、右がカペラだそう。
「もちろん、他の人には別のものに見えるかもしれません。発想は自由です」
田島さんは大阪在住。いつも鹿児島行きの便に乗り、翌日夕方に戻る便で帰ってくるそう。その間、鹿児島ではどんな風に過ごしているんですか?
「いくつか好きな場所があって……海岸沿いのキャンプ場みたいなところや、山のてっぺんの見晴らしのいいところで、のんびり過ごしてますよ」
星の世界を身近に感じさせてくれる田島さん。皆さんも素敵な星の授業、受けてみませんか?
語れども語れども、話の尽きぬ姉妹旅
気づけばロビーでずっと話し込んでいたお二人。話が途切れそうにないので、不躾ながらちょっと割り込ませて頂きました。
すみません、なぜ今回「さんふらわあ」に?
「大阪に遊びに行ってこれから鹿児島に帰るところです」
「新造船ということで乗ってみたんです」
乗り心地はいかがですか?
「もう最高!揺れるもんだと思ったけど全然揺れなくてビックリ」
「シャワーとかトイレとかそういうのがすごく綺麗で感動しました。すごい使いやすかったですね」
お二人は、鹿児島に住む姉妹。二人でよく旅をしているとか。
「姉妹旅の醍醐味は気を使わなくていいところ。喧嘩もなし」
「いままで散々喧嘩してきたので、もういいかなと。乗り越えちゃった感じですね」
船旅は四国に次いで2回目だそう。
「のんびりしていいよね。新幹線は速いけど、ねえ」
「今までは目的地まで早く行くって頭だったけど、「さんふらわあ」は夜寝てる間にのんびり行ける。それってとってもいいねって話してたんですよ。ゆっくり時間が使える。たくさんおしゃべりできるし」
「そう。話すこといっぱいあるよね」
「だよね。ずっと一緒にいるのに」
「夫婦だと話すこともないのにね」
「ほんと(笑)」
鹿児島移住の相棒は……
下船を待つ列の中、ずいぶんと大きな箱を持っている1人の女性……。
それって一体なんですか?
「ひよこです。温度調整が大事なんですが、飛行機だとそういうことができないので、だからフェリーで……」
温度管理が行き届いている「さんふらわあ」のペットルームなら安心というわけです。ところでなぜひよこを?
「実は私画家で、これから鹿児島に移住するんです。そこが自給自足のアーティスト村で、鶏を自分たちで締めて食べたりしているんです。だから私もその覚悟で、有精卵を買って孵化させたんですけど……可愛くなっちゃってペットにしちゃいました」
茶色がピコちゃん、黄色が太郎くん。
「他の人にも、この子達だけは食べないでって言うつもり」
2匹の運命やいかに⁈
いかがだったでしょうか。今回は「新造船だから乗った」という人が多かったですね。関西の人たちのフェリーに対する思い入れはとても強いと感じました。そして皆さん、とても明るい。お話をきいている私まで楽しい気分になりました。
ゆったりのんびりのフェリー旅だからというのもあるかもしれませんね。
いからし ひろき/ライター
この記事のキーワード