もくじ
旅行が趣味、旅行が仕事、という方でも、船に乗って目的地に向かう機会はなかなかないそうです。
そこでそんな旅の達人たちを「さんふらわあ」にお誘いしてカジュアルクルーズの魅力に触れていただくことにしました。
記念すべき第1回の旅人は趣味のまち歩きや街道歩きが高じて「散歩カフェ」を開いてしまった川島美歩さん。
美歩というお名前はなんと本名だそうです。まさに歩いて旅をすることを運命づけられた(?)彼女に「さんふらわあ」で北海道を目指してもらいますが、まずは大洗のまち歩きからスタートしましょう。
※最新の営業状況については、各店舗・施設HP等にてご確認ください。
私は東京で「散歩かふぇ ちゃらぽこ」という散歩や旅をテーマにしたカフェを営業しています。元々は旅行や街道歩きが好きで、同じ趣味を持った仲間が交流できる店として8年前にカフェをオープン。店のイベントとして散歩会を企画・運営しています。コンセプトは、「特別有名な観光地でない、普通の町の中にある面白いものを探す」こと。
そんな私のところにやってきた、「さんふらわあの新造船に乗りませんか?」「せっかくなので乗る前に大洗のまち歩きをしませんか?」という散歩家心をくすぐるお話。「大洗? 水族館と神社と、あと何があるの?」いやそもそも茨城県外の人には「どこそれ?」などと言われそうな町に、まち歩きの見どころを探しにいく。燃えるじゃありませんか。
というわけで「さんふらわあ」乗船当日、大洗の町を歩いてきました!
大洗を舞台にしたアニメ「ガルパン」が、町を盛り上げています
大洗の駅で電車を降りると、まず出迎えてくれるのはこのキャラクター。
大洗の町の名を、フェリーを利用する以外の人びとにも一躍有名にした「ガルパン」こと「ガールズ&パンツァー」とは、2012年放映のアニメ。「大洗女子学園」を舞台に、「戦車道」(という武道がある世界なのです)で全国大会優勝を目指す女子高生たちの学園青春ドラマです。
私は観たことがなかったのですが、ファンいわく、純粋にスポ根モノとして楽しめるのだとか、戦車の描写が秀逸なのだとか。アニメファンだけでなくミリタリーファンにも支持されているようです。
改札を出て、駅に併設の売店兼観光案内に入れば、さらに全面的に「ガルパン」。
聖地巡礼の方は、心ゆくまでここで写真を撮ってグッズを選んでいただいて。それ以外の方はざっと眺めて、出る前に観光マップと海鮮料理のグルメマップをもらいましょう(大洗水族館に行かれる方は、ここで前売り券も購入できます)。
マップを入手し、駅の外へ。港町・大洗の町散策はじまりです。……が。
この日はあいにくの雨模様。晴れていれば、さぞかし素敵な景色であろう港町なのに。どんよりした写真ばかりになりますが、心の目で青空補正をしてお楽しみください。
旅の神様「道祖神社」と、名物「みつだんご」
まずは駅を出て、ロータリーから東にのびる「きらめき通り」を行きます。大洗駅と港を結ぶ大通りで、真っ直ぐ歩けばフェリーのターミナルまで20分ほど。
歴史ある港町ならではの風景が見たいので路地に入ってみます。
さっそく古そうな神社がありました。
旅の神様、猿田彦命(さるたひこのみこと)をまつる「道祖(どうそ)神社」です。これからフェリーで旅に出る身としては、ここはお参りしないわけにはいきません!
この神社は昔から「足の神様」ということで、足のケガや病気の快復祈願に訪れる人が多く、その御礼で奉納されているもののようです。
旅の安全をお祈りして振り返ったところで。
ちょっと待って。さっき何か、目に入らなかった?
道祖神社の向かいの路地に、気になるノボリが立っています!
「名物」「みつ」「だんご」。見過ごせないワードが三つも揃ったノボリに引き寄せられて行ってみると、お店の中に「1本50円」の文字が見えました。もちろん入ってみます。
ピンポン玉を軽く潰したくらいのサイズの焼き団子に、その場で蜜を絡めて出してくれるご当地スイーツ。小麦粉で作ったという団子は、ほんのり温かくもっちりとして、生麩に近い不思議な食感。シンプルな味わいで、何本でも食べられそうな美味しさです。
店内のパイプ椅子に腰かけていただいている間に、地元の常連さんらしいお客さんが二人ほど入れ替わりでやって来てそれぞれ20本ずつ購入。20本買っても1000円……でもさすがに20本は食べきれないし、この後フェリーで北海道に行っちゃうし……と団子を食べながら葛藤しているところへ、お店の人から「ガルパン?」と尋ねられました。
「いえ、違いますが、大洗観光です。ガルパンのファンもみつだんごを食べに来ますか?」
「たくさん来るよ」
「ガルパン」は、どうやら地元の人と旅行者との会話を促す潤滑油のような役割を果たしているようです。
ちなみに今回みつだんごを食べたのは、駅から徒歩5分ほどの道祖神社の近くにある白土屋だんご店さん。他にもみつだんごを売っているお店が何か所かありました。
白土屋だんご店
- 所在地
- 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町1226-1
- 営業時間
- 9:00〜16:00
- 定休日
- 日曜
昭和レトロな雰囲気の漂う商店街と、漁港町の路地
お団子屋さんを出てまち歩きを再開。商店街の方に行ってみます。
鹿島線の線路と海岸線、平行する二つのラインのちょうど中間を貫く通りが、この町の昔からの目抜き通りのようです。昭和の雰囲気の漂う看板建築の商店が、かなり長い区間に渡って並んでいます。
古すぎず、観光地っぽすぎない。自然体でノスタルジックな商店街が、レトロ町並み好きには堪りません。一軒一軒写真を撮って歩きたくなってしまいます。
そしてそこにもここにも、ごく当たり前に「ガルパン」が……。なんだか帰ったらぜひとも「ガルパン」をレンタルして見てみようという気分になりました。洗脳されてます。
港町だけにカジキ・ミュージアムなんていうのもありました。カジキの博物館……ニッチだ!
あまりのマニアックさに中に入ってみたい気持ちでいっぱいですが、残念ながらこの日はお休み。
他に「幕末と明治の博物館」「大洗海洋博物館」などもあるのですが、いずれも水曜休み。ミュージアム系を満喫したい方は、水曜は避けたほうが良さそうです。
港町のお楽しみ、漁港とれたての海鮮料理
歩いて行くと、海に出ました。漁港と漁協の卸売市場があります。
漁港と言えば……。
素敵な商店街にテンション上がりすぎて小腹も減ったし、みつだんごも一本で我慢したし。ちょっとお刺身でも食べて行こうかしら。
大洗の町にはとれたて海産物の味わえるお店がたくさんあります。ランチ営業している旅館や本格的な料亭も多いのですが、今回入ってみたのは卸売市場のすぐ近くにある、漁協直営の「かあちゃんの店」という定食屋さん。
名物の生シラス丼をはじめ、定食900円からというリーズナブルなお店です。迷った末に、いろんなお魚が食べたくて旬のお刺身定食にしました(盛り合わせの魚は日により違います)。
たまたま待たずに入れたのですが、出てみると通りの向こう側まで続く行列ができていました。観光客だけでなく、普段使いの地元の人らしいお客さんも。大繁盛店のようです。
漁港町の海鮮グルメが楽しめるお店は、先ほど歩いてきた商店街と、この卸売市場周辺の海岸沿いにたくさんあります。お刺身、海鮮丼、かき揚げなど、イチオシのメニューもいろいろですので、お好みに合わせてどうぞ。
大洗漁協直営 かあちゃんの店
- 所在地
- 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町字東8253-1
- 営業時間
- 10:00~15:00
- 定休日
- 月曜
明太子のテーマパーク、「かねふくめんたいパーク」
漁港の西にある「めんたいパーク」は明太子で有名な「かねふく」の運営する、明太子のテーマパーク。工場に併設していて、できたての明太子の試食・直売や、明太子のできるまでが分かる展示、ガラス窓越しの工場見学が楽しめます。
かねふくは福岡に拠点を置く会社ですが、全国に5か所の「めんたいパーク」があり、中でも一番東に位置するこの大洗の工場は、多い日は1日に5トンもの明太子を製造する大きな工場なのだとか。
5トンの明太子って、どのくらいだかちょっと想像がつきませんね!
館内のギャラリーではたらこの親であるスケソウダラの生態や、漁の様子から工場で加工して明太子が出来上がるまでの過程をパネルや映像で詳しく説明しています。
ガラス越しに見える工場では、ばんじゅうにびっしり詰められた大量の明太子が通路を行き来していました。
お土産が買えるのはもちろんですが、フードコーナーもあり、特大サイズの明太子おにぎりや明太子ソフトクリームがその場で味わえます。
明太子ソフトクリーム……? 怖いモノ見たさで食べてみましたが、意外にも(失礼!)美味しい!
明太子の味はたしかにするものの魚介類っぽい生臭さはなく、近年流行りの塩スイーツ的な洗練された味。ほんのり口の中に残る辛みが後を引きます。付け合わせの塩辛い明太子せんべいがまた、心憎い。
ちなみにコーヒーなどのドリンクもあります。雨宿りには最適……いえいえ、お天気が良くても是非。
めんたいパーク大洗
- 所在地
- 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町8255-3
- 営業時間
- 9:00~18:00/工場稼働時間は9:00~16:30
- 定休日
- なし(日曜・祝日の11:30~12:30は工場が一時ストップします)
- 入場料
- 無料
1200年近い歴史を持つ「大洗磯前神社」と、「神磯の鳥居」
海岸のラインと平行する広い通りを東に向かいます。「大洗磯前(いそさき)神社」の一の鳥居という大きな鳥居を通り過ぎると、建ち並ぶ旅館などの建物の隙間から海が見えるようになりました。
建物の間の小道に入れば、浜辺には磯前神社の「神磯の鳥居」があります。
磯前神社は鳥居とは道を隔てた高台の上にあります。階段を登れば……登った先が見えないのですが……。
はい、登りました。ちょっと珍しい陶製の狛犬に出迎えられて、磯前神社の境内へ。
創建から1200年近くという歴史のある神社で、ほぼ平坦な町の中では数少ない、海に面した高台というドラマチックな場所に建っています。
雨で滑りそうなので、下りは回避して西の方へ戻る緩やかな坂を行くことにしました(階段を登りたくない方は、行きからこちらをご利用ください)。
周辺には、与利幾神社や稲荷神社などたくさんのお社があります。いずれも無人の小さな神社ですが、神社巡りが趣味の方はこの一帯だけでも楽しめそうです。先述の「海洋博物館」もこの神社の脇にあります。
また、神社を通りすぎて北の方に向かうと、「磯節発祥の地の碑」や、水戸藩第9代藩主・徳川斉昭の歌を刻んだ「子の日ヶ原(ねのひがはら)の碑」、もう少し先には「幕末と明治の博物館」などもあります。
大洗磯前神社
- 所在地
- 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町6890
- 定休日
- なし
「磯浜古墳群」と「海防陣屋跡」から港を望む
磯前神社を出て町の中心地に戻り、「磯浜古墳群」に向かいます。大洗は、実は古墳の町。4世紀ごろに造られた古墳が、先ほど通った商店街の周辺でいくつも発掘されているのです。大洗の町が、古来から人の住んでいる豊かな場所だったことがしのばれます。
茨城県の史跡に指定されている、車塚古墳。
そして、全長100m以上にもなるという前方後円墳の日下ヶ塚古墳。
他にもいくつかの古墳が発掘されているこの一帯は、先ほどの磯前神社と同じく、ほぼ平べったい大洗の町の中にある数少ないちょっとした高台になっています。幕末にはこの場所に海防陣屋がおかれたということで、服が濡れるのも我慢してヘリまで歩いてみれば、たしかに海を一望できる良い景色。
右手には、後で行こうと思っている、この町のシンボル大洗マリンタワー。そして――
なんと、これから乗る「さんふらわあ」が入港しているのが見えました。
なんだかとっても嬉しい! 時刻は午後3時。雨の中、草を掻き分けてここまで来た甲斐がありました。
それでは、「さんふらわあ」に向かってまち歩きを締めくくることにしましょう。
町のシンボル「大洗マリンタワー」
最後にやってきたのは、やっぱり一度は上っておきたい大洗マリンタワー
フェリーの出るターミナルと並んだ場所で、高さ55mの展望台からは大洗の町と海が一望できる……はずです。ものすごく天気が良ければ富士山まで見えるようです。
これから乗る「さんふらわあ」や、港に並んだ無数のトレーラーを眺めるのも楽しいです。
1フロア下にガルパン・カフェがあり、そちらは無料で入ることができます(カフェなので、オーダーは必要になります)。展望台でもガルパン・カフェでも、お好みに合わせてどうぞ。
大洗マリンタワー
- 所在地
- 茨城県東茨城郡大洗町港中央10
- 営業時間
- 3月~8月 9:00~21:00 9月~2月 9:00~18:00
- 定休日
- 12/28~30
「ガルパン喫茶 Panzer Vor(パンツァー・フォー)」は9:00~18:00 火曜休み
お土産を買ってフェリーターミナルへ
雨のため一日薄暗い日だったので、あまり夕暮れ感はありませんが、さてそろそろ夕方。
まち歩きを切り上げてフェリーに向かう時間です。が、ちょっとだけ寄り道をします。マリンタワーの隣にショッピングモールがあり、この中の「大洗まいわい市場」で、大洗の地産品を買うことができるのです。
港町ならではの海産物や、お土産に最適な箱菓子、地酒。大洗町のみならず茨城県全域の名物が揃うので、お土産を買う方は是非お立ち寄りを。
今日はここで、旅の夜のお楽しみ、大洗の地酒と漁港的なおつまみを調達していくことにしました。
またこのショッピングモール内で自転車の貸し出しもしていますので、ちょっと足を延ばして水族館や那珂湊あたりまで行かれる方は、ご利用になると便利です。(水族館へは町内循環バスも出ています)
大洗まいわい市場
- 所在地
- 茨城県東茨城郡大洗町港中央11-2
- 営業時間
- 10:00~19:00
- 定休日
- なし
そうこうしているうちに、乗船手続きに良い時間となりましたので、本日の大洗まち歩きはここらへんで終了。
大洗は小さな町なので、ご紹介したコースはさらりと歩くだけなら2、3時間、ミュージアムや買い物を楽しみながらゆっくり回っても4、5時間、水族館まで行って丸1日ぐらいの観光コースです。
フェリーに乗る前の旅のいろどりに、大洗まち散策をお楽しみください!
「散歩かふぇ ちゃらぽこ」オーナー 川島 美歩(かわしま みほ)
散歩と旅とコーヒーが大好き。ある日思いつきで東海道を歩き始めたことをきっかけに、街道歩きにハマり、2010年東海道を踏破したイキオイで東京・東高円寺に「散歩と旅」をテーマにした「散歩かふぇ」を開業。以来なかなか遠くへ歩きに行くことが出来ずにいますが、東高円寺の店で街道ウォーカーさん、散歩家さんのお土産話を聞きながら、コーヒーを入れたりカレーを作ったり散歩会のコースやイベントを考えたりしています。休日の散歩は、寄り道したりコーヒーを飲んだり猫を追いかけたりのゆるゆるペースですが、放っておくと20~30キロくらい歩きます。
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