もくじ

新しい「白い船」になるはずだった「さんふらわあ みと」

 
映画『白い船』の全国ロードショーを、1か月後に控えた2002年の5月下旬。
筆者はある雑誌の企画で、東京から沖縄、鹿児島、宮崎、大阪、舞鶴、そして北海道・小樽といくつものフェリーを乗り継ぐ日本一周の旅をしていた。その旅もいよいよ明日で終わる。

 
苫小牧港で今回最後のフェリー「さんふらわあ みと」大洗行きに乗り込んだ。23時40分。もうすぐ6月というのに北海道の夜はまだ寒い。デッキで北海道に別れを告げているのは筆者だけだった。

夕方便の新設と朝便の廃止

翌朝の太平洋は穏やかだった。左から朝日が射し込み、右には本州最東端のトドヶ崎が見える。レストランは右舷側が大型トラック運転手用、左舷が一般旅客用に分かれている。
朝から賑やかなのがドライバーさんたち。昨晩も出港前からラウンジで持ち込んだつまみを肴に酒宴を張っていた。対照的に一般客は静かに食べている。

この日の乗船者は73名で、うち30名がトラックのドライバー。この航路の常連さんということもあって、今ではもうあり得ないことだが、女性クルーがカウンターにいると「ちあき(女性の名前)、500円置いといたから」と売店から商品を持って行ってしまう。彼女が「あの、消費税かかるから525円なんですけど」と言っても、「いいがら、いいがら」と行ってしまった。顔見知りだから彼女も苦笑いで終わってしまう。

午前、大洗から苫小牧に向かう「さんふらわあ つくば」が見えた。「さんふらわあ みと」と同じ深夜便に就航している。午後にはこの朝9時に大洗を出港した「さんふらわあ」とすれ違う。こちらは朝便の就航船で、苫小牧には翌日の午前5時15分に着く。

 
 
夕方、風呂上がりに最上階のラウンジへ。福島県いわき市の塩屋崎が見える。雲から太陽が顔を出し、岬を照らしているのが何とも幻想的だ。ラウンジでは北海道を一周して帰るという茨城県の老夫婦と、毎年この時期に家族で山菜採りに出かけるというおじさんが「キツネを見ましたよ」など北海道の思い出話に花を咲かせていた。

最後の晩餐は1600円の夕食バイキング。日本一周達成の前祝いだ。おかずもデザートもたっぷり取って、ひたすら食べた。食事を終え、赤い夕陽を眺めていると大洗港が見えてきた。「さんふらわあ みと」の左側に、東日本フェリーの「ばるな」が見えた。「さんふらわあ みと」と同じ前夜の23時40分に室蘭を出港し、16時30分に大洗に到着するダイヤを採用していた。18時45分、接岸。ここにフェリーによる日本一周の旅が完結した。

それから約1週間後の2002年6月。商船三井フェリーと東日本フェリー共同運航が始まる。大洗と北海道を結ぶ航路で長年、しのぎを削ってきた両社は大洗航路の見直しを行った。その結果、輸送量が減少していた朝便を廃止し、両社の大洗発着の6隻のうち4隻を苫小牧発着に集約するとともに、夕方便を新設した。

東日本フェリーの「ばるな」「へすていあ」が夕方便に就航し、商船三井フェリーの「さんふらわあ みと」「さんふらわあ つくば」はそのまま深夜便に。朝便に就航していた「さんふらわあ えりも」「さんふらわあ おおあらい」は引退した。

大分発「しゃとる よこすか」

それから3年後の2005年7月。所用で大分に出かけた。大分での用事が済んだのは土曜日。ちょうどこの日から、海の日を含む3連休に突入していた。そこで、この前年に開設されたシャトルハイウェイラインのフェリーに乗って大分からゆっくり帰京することにした。

 
フェリーターミナルは、中心街からかなり離れた大在という場所にあった。大分で生まれ育った友人すら馴染みのない地だったが、彼の運転のおかげで難なくたどり着くことはできた。暗闇の中にひときわ明るい光を放つ小ぢんまりとしたターミナルは、できたばかりとみえてピカピカである。

乗船手続きが始まったのは22時。出港は23時59分。友人の車を見送ってから、ターミナルで待機する。窓口で手続きをしているのは、ほとんどがトラックドライバー。九州をツーリングしてきたのか、若い女性ライダーがひとりだけ。やけに目立つ。

 
乗る船は「しゃとる よこすか」。全体的にちょっとくたびれた感じが否めない。2等室は、やや手狭な雑魚寝スペース。ただ、乗客が少ないため、一人でかなり広いスペースを使って眠ることができた。

翌日は21時10分の久里浜(神奈川県横須賀市)入港まで、丸1日を洋上で過ごすこととなる。三食を船内レストランで頂いたが、いずれもオーダーメイド方式で、味および量ともにしっかりしている。

船首部にあるサロン
入口付近には使われなくなった操舵用機器も置かれちょっとした船長気分を味わえた

操舵室の真上にあるサロンもゆったりしており、窓の外に広がる太平洋を眺めつつ、ゆっくりとくつろげた。

れいんぼう姉妹、太平洋に現れず

シャトルハイウェイラインは2002年の運航開始を予定していた。当初は、新造船2隻を建造し、久里浜と大分を17時間半で結ぶ計画だった。しかし、予算面の問題から新造船の建造計画が白紙に戻るなど、就航船の確保はいきなり難航した。

そこで白羽の矢が立ったのが、九越フェリーが保有していた「れいんぼうべる・らぶ」である。いずれも2001年夏に日本海の「白い船」航路から引退後、長崎港などに係船されていた。れいんぼう姉妹が太平洋に舞台を移して活躍する。その夢は幻と消える。れいんぼう姉妹の購入あるいは傭船交渉はまとまらず、間もなく他社へ売却されてしまったからだ。

最終的にシャトルハイウェイラインが購入したのは、商船三井フェリーの朝便に就航していた「さんふらわあ えりも」「さんふらわあ おおあらい」であった。2004年4月、「さんふらわあ おおあらい」は「しゃとる おおいた」に、「さんふらわあ えりも」は「しゃとる よこすか」に改名。同17日、ようやく運航開始へとこぎつけた。ただ、いずれも船齢20年近いベテラン船だったため、航海時間は当初目標より4時間も遅い21時間半となった。

筆者を乗せた「しゃとる よこすか」は、北海道航路の朝便時代と同じく、昼間の太平洋をのんびりと航海していた。まだ近畿から関東にかけて梅雨は明けていなかったが、青空が広がり、太平洋に沈む夕陽も拝めた。

そしてすっかり暗くなった三浦半島から街明かりがパッと広がったかと思うと、そのまま久里浜港に入港した。下船後、京急久里浜駅までバス、そして特急電車に乗り換え、都内の自宅に着いたのは午前0時近くだった。そのころ、「しゃとる よこすか」は23時25分に再び大分目指し、すでに久里浜港を離れていた。

これが筆者にとって最初で最後のシャトルハイウェイライン乗船となった。就航の2隻は古い船。にもかかわらず、その運航ダイヤには余裕が足りなかった。それが原因で機関トラブルを繰り返し、欠航や大幅な遅延も珍しくなかった。これでは貨物も旅客もつかない。
2007年9月3日、シャトルハイウェイラインは破産手続開始を申し立て倒産した。就航から運航停止まで約3年半という短命であった。

「さんふらわあ みと」、日本海に現れず

2006年12月下旬。夜中の22時15分、大洗フェリーターミナルに到着した。乗船するのは「さんふらわあ みと」。パーサーからは「キャビンの位置はもうおわかりですよね?」と言われた。

4年前の初乗船は、二等寝台。二度目の乗船となった2006年4月は、一等洋室。そして三度目にして最後の乗船となる今回は特等洋室。だんだんグレードアップしている。キャビンのテレビのスイッチを入れると、NHK衛星第二で「Queen」特集を放送している。フレディ・マーキュリーの絶唱に聴き入っているうちに、船は定刻通り23時59分に出港した。窓の外には大洗の街明かりが次第に遠ざかってゆく。出港を飾る曲は「We Will Rock You」となってしまったかっこうだ。

 
 
翌朝7時半。朝食を知らせるアナウンスで目が覚めた。4年前はレストランでビュッフェなどを楽しめたが、2005年2月末をもって夜便レストランメニューの営業は廃止されていた。以来、自動販売機で冷凍食品を買って備え付けの電子レンジで温めて食べるイートイン方式が導入されたが、希望者は朝昼晩の三食トータル2000円セットを申し込むことができた。

 
セットの三食ともかなり食べ応えがある。このサービスも、あと10日ちょっとでなくなるのかと思うと、せつない。

強い雨が降ってきたので、ほとんどデッキには出られないが、三陸リアス式海岸や釜石の大きな観音様などをキャビンの窓からながめて過ごす。9時20分ごろ、「さんふらわあ つくば」とすぐ近くですれ違う。結局、この船には一度も乗ることがなかった。

売店では「さよならさんふらわあ みと・つくば福袋」を2000円で売っていた。数に限りがあるのでお早めに!とのこと。即購入した。福袋の中身は「さんふらわあ みと&つくば」の絵はがきや「ハローキティさんふらわあ」&さんふらわあTシャツに非売品の商船三井フェリーメモが入っていた。

19時45分、苫小牧に入港。あわただしく下船し、フェリーターミナルの外で待機していたタクシーに乗って、JR苫小牧駅に向かう。遠ざかり行く「さんふらわあ みと」にちょっとだけ手を振った。

年が明けて2007年。「さんふらわあ みと」とは日本海で会えるものと思っていた。「ニューれいんぼうべる・らぶ」との交換で、さんふらわあの2隻が「新しい白い船」になるはずだったから。

しかし、この4ヵ月後。思わぬところで「さんふらわあ みと」と再会することとなる。

新造船が加わり、
ますます充実する「さんふらわあ」

関東~北海道航路「商船三井フェリー」はこちら

※「商船三井フェリー」のWebサイトへ移動します

新造船が加わり、
ますます充実する「さんふらわあ」

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