【祝!20周年】映画『あなたの番です 劇場版』が撮影された「さんふらわあ」を運航する商船三井フェリーとは~後編

もくじ

※社名・部署名・役職は取材当時のものです。

2001年の商船三井フェリー誕生当初から在籍する社員3名による座談会の後編は、創業10周年を迎えた2011年の出来事から。座談会の進行役は、当サイトでも記事を書いている航海作家の金丸知好(カナマルトモヨシ)さんです。

≫ 商船三井フェリー創立20周年記念座談会~前編

大洗港が震災の被害でダメージ。「さんふらわあ」は津波被害を間一髪回避

(カナマル)
商船三井フェリーが誕生して10周年の2011年。東日本大震災が発生しました。

(下永)
その時私は九州にいたので、すぐには状況がわかりませんでした。2~3日後、物資不足が明らかになったので大量に飲料水を買って東京向けの当社運航船(RORO船)で送ったり、東京からRORO船で送りこまれた社有車に九州でガソリン給油して送り返すなどを行いました。

商船三井フェリー株式会社 営業一部長 志水さん

(志水)
震災で大洗港も被災してしまったのですが、物流を止めるわけにはいきません。全社で何とかして東京に船を入れようということで、いろんな方にご協力をいただいて東京~苫小牧航路を臨時的に、6月までの3か月間ほど運航しました。大洗港で作業に従事していた方たちにも、東京港に来てもらって作業していただいたりしました。

商船三井フェリー株式会社 経営企画部長 下永さん2
商船三井フェリー株式会社 経営企画部長 下永さん

(下永)
今年11月5日の世界津波の日に、関東運輸局の依頼で弊社の運航管理担当の取締役が津波についての当社取組みをWebで講演を行ったんですね。講演資料作成のため当時の記録を確認していくうちに2011年3月11日当日のことが改めて詳しくわかりました。
当日、揚げ荷役をしているときに地震が起こり、緊急出港することになった。緊急出港するまでに29分。津波の第1波が来たとき、乗客の皆さまはすでに下船した後で、フェリー船内を清掃するスタッフの方々が船内にいました。もうその人たちを下ろす間もなくて、出港したわけです。
第1波は60センチくらいでしたが、そのあと最大3.9メートルの津波が来た。緊急出港時にその波でなくてよかったとしか言いようがありません。港を出て安全な防波堤の沖まで行くのに30分かかります。30分以内に津波が来るのでまさに間一髪のタイミングで幸運にも事なきを得たんですね。

商船三井フェリー株式会社 営業二部副部長 宮原さん2
商船三井フェリー株式会社 営業二部副部長 宮原さん

(宮原)
私は単身赴任で大分にいたので、頭をよぎったのは家族のことでした。まったく連絡が通じないので、どうしようもなくて。
そうしたら日本全国に津波警報が出ました。船に積む荷物がもう岸壁にそろっていたので、津波の被害を避けるために高台に避難させないといけない。金曜日の午後で週末便に積む荷物が多くて、とにかく貨物を避難させることで精いっぱいでした。
作業が終わって事務所に戻り、テレビを見て愕然としました。その後、大洗港の被害のことも知り、北海道航路はどうなるんだろう…と不安でした。

(志水)
私も当時九州航路のRORO船担当部署に所属していたのですが、あの時初めていわゆる「ガス欠」での運休を経験しました。発災直後は東京湾内でも燃料の補給が思うようにできなかったのです。一方、北海道航路のフェリーについては発災直後関東側に寄港できる港がないため、一時自衛隊の輸送をお手伝いするなどしていましたが、首都圏の多くの食料は北海道に頼っていることもありますし、物流を絶やすわけにはいかないということで東京~苫小牧航路で運航を再開し、大洗港の復旧を待つことになりました。

震災後、自衛隊の移動をサポートする「さんふらわあ」。その後一時的に東京港に発着港を変えて、物流を止めないための重要な役割も果たしました。

大洗港復興を「ガルパン」人気が後押し

(カナマル)
震災からの復興の過程で大ヒットアニメ「ガルーズ・アンド・パンツァー」内で、「さんふらわあ」が大洗の情景として描写されるなどして、大洗にとって「さんふらわあ」がシンボルとなった印象があります。

大洗港フェリーターミナルに設置されていた「ガルパン」キャラクター等身大カットアウトパネル。
大洗港フェリーターミナルに設置されていた「ガルパン」キャラクター等身大カットアウトパネル。

(志水)
間違いなく「ガルパン効果」はあって、「さんふらわあ」も大洗もその知名度アップにつながっていると思います。
創業時の大洗~苫小牧航路は夜の出入港で、朝便の時も早朝入出港でしたので、どうしても船体を皆さんに見ていただく機会が少なかった。それが2002年の共同運航を機に夕方便になったので、皆さんの目に触れる機会が格段に増えました。
大洗の海水浴場は、昼間に「さんふらわあ」がすぐ横の港に入ってくるシーンを間近で見られるんですよ、そんな場所は全国的にもかなり珍しいのではないでしょうか。

痛恨の極みだった船舶火災の教訓を胸に

(カナマル)
復興も順調に進むなか、2015年に起きた「さんふらわあ だいせつ」の火災事故※はショッキングな事件でした。

(宮原)
私は当時、北海道航路の物流営業を担当する営業一部に在籍していて、事故後室蘭での対応にあたりました。2~3週間で2回ほど行ったのですが、言葉がでませんでしたね。
ご乗船いただいていた貨物事業者の皆さまが室蘭港に来られ、ご自身の貨物もダメージを受けているにもかかわらず、「商船三井フェリーさん、船枠の確保もよろしくお願いします」とたくさんの方に声をかけていただいたことには驚きました。私どもはカンカンに怒られると思っていましたから。北海道の皆さまにとってフェリーは必要不可欠な存在なのだと再認識しました。

(下永)
2015年7月31日に事故が起きて、それから「だいせつ」は186日間不稼働でした。
その日午後5時に船舶部から「火災」という言葉が電話で聞こえてきて、聞き耳を立てていたら「あっ、消えました」という言葉が聞こえてきたので、束の間ほっとしていたんです。ところがそれとは全く違い「総員退船!」となって、事務所内でホワイトボードを用意して情報をまとめる作業を始めました。
まもなく電話が鳴りだして、各部てんやわんや状態に。捌ききれないほどの電話がかかってきて、その1時間後にはテレビ局のカメラが事務所玄関まで入ってきて…と、メディア対応の想定もしていたんですが、現実はそれを超えた事態でした。

※2015年7月31日、「さんふらわあ だいせつ」の第2甲板で火災が発生。10日にわたって消火作業が行われました。この事故により、二等航海士1名の命が失われました。

ハイブリッド推進システムを搭載した待望の新造船が2隻就航

(カナマル)
震災や事故などを乗り越えて2017年、初めて自社で建造した新造船を持つことになりましたね。

(志水)
商船三井フェリーとして初めての新造船ですから、気持ちの高まりが違うなと感じました。
これまでは会社の名前が変わったり、船の名前も変わったり看板をかけかえることが多かったので、「さんふらわあ さっぽろ・ふらの」は会社の名前も船の名前も変わらず生涯を全うしてほしいなという思いはあります。

(下永)
我々にとっても久しぶりの新造船だったんですけど、造船会社であるJMU(ジャパンマリンユナイテッド)さんにとっても久しぶりのフェリー新造船だったんですよね。フェリーでは珍しかった二重反転プロペラなど、新技術も搭載しています。

(宮原)
自前の新造船は私も初めてでした。最新式の船で船内スペースも広くて快適です。この船に多くのお客さまに乗っていただき、たくさんの貨物も運ばなければならない。そういう意味では身が引き締まる思いがありました。

(下永)
一般的な船には中央部に吹き抜けがあるんですが、新造船はデザイナーさんの思いがたっぷり詰まった、ユニークな構造になりました。居住区を船首側に持っていき、右舷側に2階吹き抜けのプロムナードをつくるなど、かなり工夫されていると思います。

2017年5月に就航した「さんふらわあ ふらの」。
教えて!さんふらわあ_その2
2017年10月に就航した「さんふらわあ さっぽろ」。

(カナマル)
新造船も就航し、これからというときにコロナ禍に見舞われました。

(下永)
特に2020年の4~6月は、旅客の落ち込みが前年の6割減ぐらいになりました。

(志水)
貨物は食料品や生活必需品などの物資を多く運んでいますから旅客ほどの落ち込みではありませんが、前年の1割くらいの影響は受けました。

(下永)
その後感染防止対策を徹底して、お客さまに「さんふらわあ」は安全・安心であることを伝えたいと各所奮闘しました。フェリーは密を避けられる交通手段です。クルマで乗船できて、船内には個室もたくさんありますから、今は動画も活用して、フェリーの良さ、安全性のPRに努めているところです。

コロナ禍で迎えた創業20周年。キャンペーンを実施

(カナマル)
新型コロナウイルスが収束する見通しが立たない中、20周年の節目を迎えました。
個人的な話で恐縮ですが、私は7月1日1時30分に苫小牧を出港する「さんふらわあ しれとこ」に乗って同日夜に大洗に着きました。下船後、大洗の街に花火が何発か打ち上げられました。あとになって、あの花火は創業20周年を祝うもので、その夜に出港する夕方便から眺められたと知りました。

大洗港の花火
2021年7月1日、大洗で打ち上げられた花火。

(下永)
正直、「ああ、いつの間にか20周年」っていう感じなんですよねえ、社長からそう言われるまではあまり意識していなかったくらいで(笑)。そこで20周年を社内外にPR、盛り上げようと推進委員会が結成されました。本当はもっとお客さまと一緒に楽しむイベントなども企画したかったのですが、残念ながらコロナ禍でさすがにそうもいかず、最低限できることを、ということで実施しました。
7月1日に大洗港で打ち上げた花火は、密回避のために直前まで町の人たちにもシークレットにしていました。当日乗船のお客さまだけにお知らせして、船上から見ていただくことにしたんです。

「さんふらわあ ふらの」に掲げられた20周年の感謝を表した手書きの横断幕。
夕方便の船内では、料理長手づくりのケーキが乗船のお客さまを出迎えました。

(志水)
当日の記念便は半額キャンペーンをやっていたこともあって、コロナ禍の中ではありましたがかなりのお客さまにご乗船いただきました。

(下永)
対外的に大きなイベントができないこともあって、どちらかというと社内向けに、20周年を機に過去を振り返ってみようという色彩が濃くなったんですよね。いろんな変遷をたどって誕生した会社ですし。
ちょうど本日(取材日:2021年11月16日)「さんふらわあ ふらの」の模型を本社受付にディスプレイしたんですが、これも20周年記念の一環ですね。

カナマルさん(左端)・座談会メンバーと、この日展示されたばかりの「さんふらわあ ふらの」の模型。
カナマルさん(左端)・座談会メンバーと、この日展示されたばかりの「さんふらわあ ふらの」の模型。

(志水)
創立記念20周年の7月1日、大洗港では朝から天気が悪かったんです。でも、夕方便の出港直前になって、夕陽がぱっと差してきて、船体のマークが黄金色に輝いたんです。実にいい記念の船出になったと思います。

(カナマル)
私は「さんふらわあ しれとこ」の船上から眺めていました。まさに「さんふらわあの唄」の歌詞のように「太陽に守られて」という感じがしました。
ところで、さまざまなことがあった20年間。乗船客層に変化はありましたか?

(下永)
この20年間、当初は大型バスを利用した団体のお客さまが多かったのですが、今は個人旅行のお客さまが圧倒的に多いです。インバウンドのお客さまは比較的少なくて、コロナ前で年間に1,000人程度です。

(カナマル)
2002年5月に「さんふらわあ みと」に乗ったときの話なんですけど、「6月に開幕するFIFA(サッカー)ワールドカップではこの船でエクアドルのサポーターを大量に乗せて、イタリアとの試合が行われる札幌へ連れて行くことになっています」、と乗組員の方から聞いたことを思い出しました。

(下永)
そういうのはあったかも。ワールドカップで海外からのお客さまの輸送が盛り上がるぞ、って話は出ていましたね。もし2021年の東京オリンピックが有観客だったら、どうなっていたでしょうね。
船内のサイネージには、英訳のほか中国語、ハングル文字の表示を採用しています。ウィズコロナ・アフターコロナのひとつの柱として、台湾や中国、韓国などからのお客さまを取り込んでいきたいという考えはありますね。

(カナマル)
最後に、20周年を迎えてお客さんへのメッセージなどいただけますか。

(下永)
もっと「さんふらわあ」を世間に知っていただいて、少しでも「4~5日休みが取れたから乗ってみようか」という方向にもっていきたいですね。まだまだニッチな世界なので「さんふらわあ」のブランド力をさらにアップして、多くの方に乗っていただきたいです。

(志水)
北海道はもちろん九州も、暮らしに必要なものを運ぶ、世の中の役に立っている仕事だということを社員には誇りを持ってほしいと思いますし、そのことをしっかりお客さまにもお伝えして、関西~九州航路の「フェリーさんふらわあ」とお互いが助け合いながら航路が発展していけばいいなと思います。

(宮原)
首都圏~九州間の貨物輸送にはモーダルシフトの伸びしろはまだまだあります。お取引のあるお客さまは弊社のことをよくご存じですが、お取り引きのないお客さまにはまだまだ知られていないので今後もっと認知度を高めていきたいですね。個別での認知度アップには限界があるので、メディアやSNSでの発信で当社のことを知っていただきたいなと思いますね。
物流というのは人間の血管と同じようなものなので日本経済の一端になっていると日々実感しながら仕事をしています。こうした思いをこれからの若い人たちにも体験してもらいたいですね。
この20年間の歩みを見ればわかるように、楽しいこともあればつらいこともあります。若い人たちにはさまざまなことを経験してもらいたいですし、それを私たちが後押しできればと思っています。それが将来、会社の力になり、さらに会社が発展して、30周年の時に「20周年の時よりもっとよくなったね」と言えるようになれば非常にうれしいですね。

≫ 『CO2削減に効果的!「さんふらわあ」は環境にやさしい輸送手段』

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皆さん、座談会に参加いただきありがとうございました。これからも30周年、50周年、100周年と、未来に向かって前進を続けてください!
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商船三井フェリーでは、2022年3月末まで20周年記念キャンペーンを延長実施中です。ぜひ、安心・快適な船旅が楽しめる「さんふらわあ」にご乗船ください!!
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