もくじ
航海作家のカナマルトモヨシです。長距離フェリーを中心に、国内では北海道から沖縄まで、さまざまな船に乗ってきました。その経験から強く感じたことがあります。それは「さんふらわあ」という船を、日本のフェリーのシンボルと感じている人が多い、ということでした。 白い船体に真っ赤なひまわりが大きく描かれた船。フェリーに乗ったことのない人でも、さんふらわあという名前は知っている。そんなことも珍しくない。さんふらわあは今も昔も、日本のフェリーの代名詞のような存在なのです。
10隻のさんふらわあが北へ南へ活躍中
さんふらわあが最初に登場したのは1972年。それは日本高速フェリーが、名古屋~高知~鹿児島航路に就航させた「さんふらわあ」だった。同年には「さんふらわあ2」も同航路に就航した。1973年に「さんふらわあ5」「さんふらわあ8」が東京~那智勝浦 ~高知航路に、1974年には「さんふらわあ11」が大阪~鹿児島航路に就航し、「さんふらわあ5姉妹」として一世を風靡した。
その他、多くの旅客を扱うものに限れば、「さんふらわあ7」(1973年)、初代「さんふらわあ さっぽろ」(1974年)、「さんふらわあ おおあらい」(1987年)、「さんふらわあ えりも」(1989年)、「さんふらわあ こがね」(1992年)、「さんふらわあ にしき」(1992年)、初代「さんふらわあ ふらの」(1993年)、「さんふらわあ みと」(1993年)、「さんふらわあ くろしお」(1997年)、「さんふらわあ つくば」(1998年)、2代目「さんふらわあ さっぽろ」(2005年 ※1998年竣工の「ばるな」を改名)と11隻のさんふらわあが次々に登場した。
そしていまでも、さんふらわあは、北は北海道から南は鹿児島県まで日本各地の港で見ることができる。現在活躍中のさんふらわあは10隻。関東の大洗(茨城県)と苫小牧(北海道)をつなぐ航路には「商船三井フェリー」の4隻。それから大阪~別府(大分県)航路に2隻、神戸~大分航路に2隻、そして大阪~志布志(鹿児島)航路に2隻と合計6隻からなる「フェリーさんふらわあ」の船隊である。
北海道への夕方便は昨年デビューしたての新造船2隻が活躍中
まずは北海道航路をゆく商船三井フェリーのさんふらわあ4隻から見てみよう。商船三井フェリーでは出発時刻によって夕方便と深夜便の2タイプに分類される。苫小牧18時45分・大洗19時45分出港の夕方便には、「さんふらわあ ふらの」と「さんふらわあ さっぽろ」の2隻が就航。いずれも昨年デビューしたばかりのピカピカの新造船だ。
2隻とも先代の船名をそのまま受け継いでいるが、その中身は快適なクルーズフェリーへと大きく変わっている。専用バルコニー付きのキャビンや、カプセル寝台など個室が大幅に増加し、旅客のプライバシーを重視したつくりになっている。
また、ペットと一緒に過ごせるスーペリアウィズペットも登場し、人だけでなく動物にも優しい。さらに、新造船の登場で、大洗発が以前よりも1時間15分遅い時間になったが、苫小牧入港時刻は従来と変わらず、スピードアップが図られた。
深夜に北海道へ向かう2隻は異色の経歴
真夜中1時台に出港する深夜便には「さんふらわあ しれとこ」と「さんふらわあ だいせつ」が就航する。いずれも2001年に竣工し、かつては北海道の室蘭~新潟県直江津~九州・博多と日本海を横断する東日本フェリーで活躍していた「れいんぼう姉妹」が前身だ。「ニューれいんぼうベる」は現在のしれとこで「ニューれいんぼうらぶ」が現・だいせつである。2007年に商船三井フェリーに移籍し、現船名となった。
移籍したとはいえ、船内は「れいんぼう姉妹」時代の面影をほぼそのまま残している。旧式フェリーの代名詞ともいえる雑魚寝の二等和室はなく、全段1段ベッドのカジュアルルームが大半を占める。レストランはなくなったが、自動販売機コーナーの24時間営業「ホール」としてリニューアルし、好きな時間に好きなだけ食事をとれるようになっている。船首にある展望ラウンジは昔のまま残され、大海原を眺めたり、読書をしたりと乗客の憩いの場として利用されている。
瀬戸内海クルーズを意識した4隻、週末便はイベントも
それでは次に、フェリーさんふらわあの6隻を見てみよう。同社には関西発着の別府・大分・志布志と3つの航路がある。
別府航路は大阪発着で、就航するのは「さんふらわあ あいぼり」と「さんふらわあ こばると」。あいぼりは1997年12月就航、こばるとは1998年4月にデビューした。人間に例えれば今年成人を迎えるが、今もバリバリのベテラン選手である。
2隻とも現さんふらわあ船隊が備えるキッズスペース、ペットルーム、そしてさんふらわあオリジナルグッズや寄港地の名産品を取りそろえる売店といった、現代の旅客のニーズに配慮した施設の原型を見せてくれる。若干年季は入っているかもしれないが、「さんふらわあの21世紀型フェリーの原点」が見られる貴重な船と言える。
いっぽう、神戸発着の大分航路は「さんふらわあ ごーるど」と「さんふらわあ ぱーる」の2隻が就航する。ごーるどは2007年11月、ぱーるは2008年1月就航と今年でデビュー10周年を迎えた。
8室しかないデラックスキャビンには宿泊客専用のウッドデッキ(バルコニー)がついている。ここには椅子とテーブルがあり、ライトアップされた瀬戸大橋の通過など瀬戸内海の夜景をじっくりと楽しめる。
以上4隻にはいずれも限定1室の「くまモンと夢見る船旅ルーム」がある。さんふらわあオリジナルのくまモンのカーテンやマットもあり、オリジナルビニール巾着のプレゼントという特典付きだ。また、大分・別府航路では金・土曜発の週末便で船内イベントが催される。出港時に銅鑼を鳴らし、船内コンサート「さんふらわあMusic Night」、ジャグリングや星空教室、船上ヨガなど楽しい催し物が行われ、瀬戸内ナイトクルーズに華を添える。
南九州航路は新旧交替の真っ只中
フェリーさんふらわあ3つ目の航路は、大阪と鹿児島県の志布志を結ぶ南九州航路だ。ここには「さんふらわあ さつま」と「さんふらわあ きりしま」が就航している。さつまは1993年3月デビューと、現役さんふらわあ10隻の中で最長老の25歳のベテランだ(※きりしまは同年8月就航)。
大分・別府航路の4隻と同様に、くまモンと夢見る船旅ルームが限定1室で設置されているほか、鹿児島のご当地キャラ「ぐりぶーとさくら」の仲良し船旅ルームも1室あるのが、南九州航路ならではの特徴だ。
残念ながら、さつまときりしまは間もなく見納めとなる。しかしその代わり、この5月15日に「さんふらわあ さつま」そして夏に「さんふらわあ きりしま」という、従来船とまったく同じ名前の新造船2隻がデビューする予定だ。
新造船のエントランスは3層吹き抜けと開放的になり、エントランスホール内にあるアトリウムでは、四季、海や宇宙のプロジェクションマッピングを楽しめる。
全客室117室のうち8割以上の94室が個室となる。その他、スイートルームの設置など、フェリーさんふらわあ初となる施設がそろう。南国へのカジュアルクルーズを満喫できる船の登場だ。また、「ペットと過ごせるデラックスルーム」も新設。ドッグランも併設され、ペットもクルーズ気分が味わえるだろう。
新たな仲間が加わることで、さんふらわあの船旅もこれまで以上に快適なカジュアルクルーズが北海道・瀬戸内海・南九州どこでも味わえるようになる。やっぱりこれからも、フェリーと言えばさんふらわあ!なのだ。
現役「さんふらわあ」一覧
さんふらわあ さっぽろ/ふらの
- 竣工
- 2017年
- 建造所
- JMU横浜事業所磯子工場
- 就航航路
- 大洗ー苫小牧(夕方便)
- 総トン数
- 13,816トン
- 航海速力
- 24ノット
- 全長
- 199.7m
- 全幅
- 27.2m
- 旅客定員
- 590名
- 車両搭載数
- トラック154台/乗用車146台
さんふらわあ しれとこ/だいせつ
- 竣工
- 2001年
- 建造所
- 三菱重工業下関造船所
- 就航航路
- 大洗ー苫小牧(深夜便)
- 総トン数
- しれとこ:11,410トン
だいせつ:11,401トン
- 航海速力
- 25ノット
- 全長
- 190m
- 全幅
- 26.4m
- 旅客定員
- 154名
- 車両搭載数
- トラック160台/乗用車62台
さんふらわあ あいぼり/こばると
- 竣工
- あいぼり:1997年
こばると:1998年
- 建造所
- 三菱重工業下関造船所
- 就航航路
- 大阪ー別府
- 総トン数
- 9,245トン
- 航海速力
- 22.4ノット
- 全長
- 153.0m
- 全幅
- 25m
- 旅客定員
- 710名
- 車両搭載数
- トラック100台/乗用車100台
さんふらわあ ごーるど/ぱーる
- 竣工
- ごーるど:2007年
ぱーる:2008年
- 建造所
- 三菱重工業下関造船所
- 就航航路
- 神戸ー大分
- 総トン数
- ごーるど:11,178トン
ぱーる:11,177トン
- 航海速力
- 23.2ノット
- 全長
- 165.5m
- 全幅
- 27m
- 旅客定員
- 716名
- 車両搭載数
- トラック135台/乗用車75台
さんふらわあ さつま/きりしま(旧)
- 竣工
- 1993年
- 建造所
- 三菱重工業下関造船所
- 就航航路
- 大阪ー志布志(鹿児島)
- 大阪ー志布志(鹿児島)
- さつま:12,415トン
きりしま:12,418トン
- 航海速力
- 22.85ノット
- 全長
- 186m
- 全幅
- 25.5m
- 旅客定員
- 782名
- 車両搭載数
- トラック104台/乗用車140台
さんふらわあ さつま/きりしま(新)
- 竣工
- 2018年
- 建造所
- JMU横浜事業所磯子工場
- 就航航路
- 大阪ー志布志(鹿児島)
- 総トン数
- 13,500トン
- 航海速力
- 23ノット
- 全長
- 192m
- 全幅
- 27m
- 旅客定員
- 709名
- 車両搭載数
- トラック121台/乗用車140台
金丸知好(カナマルトモヨシ)/航海作家
1966年富山県生まれ。日本のフェリーだけでなく外国航路や、中国や韓国の国内フェリーにも乗船経験が豊富。フェリー専門誌「フェリーズ」(海事プレス社)の執筆、「クルーズ」誌(同)に「フェリーdeクルーズ」を連載している。主な著書に「アジアフェリーで出かけよう!」(出版文化社)、「フェリーでGO!」(ユビキタスタジオ)、「超実践的クルーズ入門」(中公新書ラクレ)など。
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