社長年頭挨拶

2007年01月04日

社長 芦田 昭充

決意を新たに安全運航の徹底を

安全運航の徹底で、顧客の信頼を回復せよ
商船三井グループの皆さん、新年おめでとうございます。昨年は4件の重大海難がほぼ連続して発生するという当社グループにとって非常に残念な年でした。これらの事故により顧客や地域の方々をはじめとする関係者の皆様に多大なご迷惑をお掛けしただけではなく、私たちの仲間である本船の乗組員に犠牲者を出すという大変不幸な結果となったことは痛恨の極みというほかありません。
海上輸送をコアビジネスとする当社グループにおいて安全運航の確保は最優先で果たさなければならない使命です。江戸時代の農政家である二宮尊徳は「道徳なき経済は犯罪である」と言いました。私たちも「安全なき海上輸送は犯罪である」という強い意識を持って安全輸送の達成に向けて取り組んでいかなければなりません。新年を迎えて安全運航の徹底と顧客の信頼回復に全力で取り組む決意です。
原田副社長を委員長とする安全運航緊急対応委員会に一連の事故についてすべての面からの分析・検証と抜本的かつ具体的な対応策の策定を命じ、先日私が委員長を務める安全運航対策委員会への提言をもらいました。私が感じていたいくつかの仮説とも合致する内容であったので、即座にその実行を命じました。現在船舶部を中心として各執行組織でこれを遂行中です。
「安全第一」は言葉だけのお題目でなく、とっさの判断においても最重要基準でなければなりません。「安全はすべてに優先する」のです。躊躇してはいけません。ペーパー主義に陥って、自分自身の五感を使わずにマニュアル類に過度に頼り切っていないでしょうか。小さなことにこだわって最も重要な安全がおろそかになってしまうことはないでしょうか。

感受性を研ぎ澄ませ
事故を起こさないために常に危険に対する感受性(Sense of danger)を研ぎ澄ましてください。立証されているわけではありませんが、地球温暖化に伴うと思われる気候の変化により、われわれの過去の経験、知識からかけ離れた異常気象が起きる可能性は十分に考えられます。近年、実際に異常な海象・気象の発生・出現に直面するケースもあり、安全運航の確保のためにはこれらの異変にも注意を払っていく必要があります。船舶も以前と比べて大型化しており、その分、万一海難が発生した場合の影響は甚大であり、大規模な事故につながる危険性も高くなっています。
また、事故を未然に防ぐために費やす時間とエネルギーを1とすれば、いったん事故を起こしてしまった後の対応・処理に費やす時間とエネルギーはその100倍以上でしょう。事故を未然に防止することで、事故の処理に費やす膨大なその分の時間とエネルギーを営業活動など本来の前向きな業務に生かすことができるのです。
安全運航の達成は必ずできます。「Can Do Spirit=やればできるの精神」を持って臨めば、解決できない問題はありません。本船の安全運航、事故防止という最も重要な使命を当社グループ役員及び従業員のコミットメントとしてCan Do Spiritを持って真摯に取り組んで行きましょう。

成長路線を継承 ―次期中期経営計画―
安全運航を全うすることを前提として、次にこれからの当社グループの目指すべき方向について話します。
当社グループが推進してきた2004年度からの3ヵ年中期経営計画であるMOL STEPの最終年度にあたる2007年3月期業績は、役員及び従業員一丸となった営業活動とコスト削減の努力の結果、市況と経営環境の変化が大きかったにもかかわらず、一昨年度、昨年度とほぼ同レベルの好決算を連続で達成する見通しです。今年4月からのスタートを目指して現在策定中の次期中期経営計画においても、更に拡大を続けるマーケットに合わせた成長路線を継承していきます。

飛躍的に伸びる海上輸送量
世界の海上輸送需要は今後も伸びるものと確信しています。実は2004年は世界人口の64億人に対し世界の海上荷動き量が65億トンとなり、人口1人当たりの海上荷動き量が1トンを上回った画期的な年でした(ちなみに1965年は世界人口33億人に対して海上荷動き量は17億トンでした)。 今後も海上輸送量は人口の伸びを上回って伸びていくと予測します。2050年には世界の人口は90億人強になると予想されていますが、海上荷動き量の年平均の増加率が過去20年間と同様に人口増加率の2.5倍程度で伸びていくとすると2050年の世界の海上荷動き量は150億トンを上回る見込みとなります。
「世界は二度にわたって一つになった」と言われています。1度目は1840~1850年にかけて定期船網と(有線・無線の)通信網により全世界がカバーされたとき、2度目は1970年にコンテナ船、ジャンボジェット機、コンピューターが出現したときです。それから30年が過ぎ、世界経済の統合は飛躍的に進んでいます。それにより世界の貿易量も飛躍的に増加しました。船で言えばコンテナ船は当時800TEU積みであったものが、現在では10,000TEU積みを越える大型船が出てきています。更に現在では経済圏同士の結びつきも強まり、緊密化どころかますます一体化しているとも言える状況です。また、ITの進化により物流の合理化が進むという意見もあるでしょうが、ITがいくら進んだとしても実際にモノの動きはなくなることはあり得ません。むしろITが進めば潜在的な物流が掘り起こされ、それによってモノももっと動くようになるでしょう。このような状況の中、当社が活躍するチャンスは更に拡大していくものと考えます。

世界経済発展の原動力 ―海運業―
海上荷動き量が増加していくと考える理由の一つは、グローバルな分業化により生産地と消費地の一層の遠隔化が資源と製品の両面で更に拡大していることです。石油を一つの例にとってみてもアメリカは国内石油消費量の2/3を輸入に頼っています。中国は1994年に石油の純輸入国になりましたが、アメリカはその50年前の1944年から純輸入国になっており、以降輸入量を増やし続けています。今後、アメリカや中国を中心に石油の輸入量は共に拡大していくでしょう。製品輸送でも中国をはじめとしたアジア地域は既に世界の工場となっており、北米と欧州における製品輸入のうち 遠隔地である中国・アジア地域からのものが占める割合は、それぞれ現在の75%と58%から3年後の2009年には80%と65%程度までに達する見込みです。
2005年の世界のGDP(名目)は44兆ドルで、貿易の占める割合はその23%、そのうち海上輸送が相当部分を占めます。すなわち世界の豊かさをもたらす大きな要因は貿易の拡大であり、それを支えているのが海上輸送なのです。今後も世界経済の発展に伴い海運業が成長産業であり続けると考える理由はそこにあります。当社グループは世界の海運の中核を担う企業集団であり、拡大するマーケットに合わせ更なる成長を目指していきます。3月に発表する次期中期経営計画はそのための具体的な戦略のブループリントとなるものです。

Growth、Group、Globalの3Gを重視
安全運航を達成し、更なる成長路線を描くために一番大切なものは言うまでもなく人材です。そのためには、当社グループの役員及び従業員全員がモラルを高く持って自らの業務に臨んでもらいたいと思います。「陽氣発處金石亦透」(注)という言葉があります。志のあるところ不可能なことはないという意味ですが、私たちのモラルが高ければ何事も解決できるはずです。当社グループの安全運航徹底のための人づくりの強化・充実への第一歩として、当社グループ専用の練習船の運航を今年から開始します。また、海陸従業員の教育研修強化の一環としてMOL Kakio Instituteを新築しました。安全運航徹底のための体制再構築と強化を3月までに成し遂げ、4月からはいよいよ新中期経営計画を始動させます。
私は社長就任挨拶でGrowth、Group、Globalの「3G」が重要であると申し上げました。これらのファクターを進めていくのは「ヒト」です。この思いは今も全く変わっていません。多国籍にわたる海技者をはじめとしたグループの人材及びグループに蓄積されたノウハウ、知識、経験を十分活用し、更にグローバルにグロース=成長路線を邁進していきたいと思います。
最後に、当社グループ運航各船の安全と全世界の商船三井グループ従業員とそのご家族のご健康とご多幸をお祈りして新年の挨拶とします。

注)「陽気の発する処(ところ)金石もまた透(とお)る」(朱子語類学二にある言葉)陽気(万物生成の根本となる二気の一つ。万物が今まさに生まれ出て、活動しようとする気)が発動するところでは、金も石を突き通す。

以上