第一話 自動車船物語「革新的技術の宝石箱」


自動車船の歩み

2009年9月公開

自動車が自走して船に入っていく。1965年、今では当たり前になったこの方式を、商船三井は日本で初めて「追浜丸」で導入しました。

1950年代
一般貨物船の時代
自動車専用の船を必要とするほどの輸送量がなかったころ、自動車は雑貨輸送を主体とする定期船(一般貨物船)に、一台一台クレーンで吊り上げて荷役(積み/揚げ)して輸送されていた。このクレーンによる荷役では手間と時間がかかり、1時間に15台といったペース。航海中の揺れによる接触や他の貨物の荷崩れによる貨物への損傷が大きいことも問題だった。
1960年代
カーバルカーの時代

欧米間の自動車輸送が増えるにつれて、自動車を輸送するために工夫されたスペースを持つ船が登場した。このころの船は「カーバルカー」と呼ばれ、ばら積み船(=バルカー)としても利用できる兼用船だった。ばら積み船に可動式のカーデッキを取り付け、行きは自動車を輸送し、帰りは穀物などのばら積み貨物を輸送した。当時はこの兼用船が、最も輸送効率が高いと考えられていた。初期の「カーバルカー」における自動車の積み降ろしは、船に装備されたクレーンで荷役を行なうLO/LO(Lift-on/Lift-off)方式だった。

LOLO方式より大幅に荷役時間を短縮し、荷役時の貨物への損傷軽減に大きく貢献したのが、RO/RO(Roll-on/Roll-off)方式の開発だった。自動車を自走させて荷役するという全く新しい発想で、1965年商船三井は、日本初、RO/RO方式の自動車専用の荷役装置を備えた「追浜丸」を建造した。1時間に100台のペースで積み込み、荷役時間を飛躍的に短縮し、貨物への損傷も大幅に軽減した。船の後ろや中央に自動車専用の積み付け口を設け、現在の自動車専用船(=自動車船)の原形となった「追浜丸」は、自動車輸送史上、最も画期的な技術革新であったといえるだろう。開発段階からの熟慮と、新たな船型にチャレンジする勇気を結集した船である。

1965年 追浜丸竣工

日本初RORO方式自動車専用荷役装置を設けた船
載貨台数(小型乗用車):1,200台

  • カーデッキを5層設け6段積みとした。
  • 狭い船内スペースでカーデッキの横方向に通じるパイプを設置して回転させることによって、エレベーターから積込まれた自動車を、見事に横移動させるカーリフターと呼ばれる技術を開発した。
  • 可動式のカーデッキを吊り上げてしまえば、ばら積み船としての利用が可能。
  • 小麦をはじめとした穀物15,000トンを輸送した。
  • ばら積み貨物荷役のため、クレーンを備えている。
1970年代
PCCの時代

1960年代半ばには、自動車輸送の需要が増加してきたため、行きも帰りも自動車輸送だけを行う自動車船「PCC(Pure Car Carrier)」が登場した。荷役専用のクレーンを装備せず、荷役方式はRO/RO方式を採用している。

1970年代、自動車輸送は日本からの輸出が中心となっていった。日本からの輸出は主に小型自動車であったので、PCC設計のテーマは、できるだけ多くの小型乗用車を積載できること。そのため、カーデッキの高さを必要最小限にし、デッキ数を増やしたデザインとなった。1980年代なかばころまでのPCCは、小型乗用車の輸送を主体としたデザインで、大半のカーデッキの高さは1.65mと非常に低く造られた。

登場したばかりのPCCの収容能力は2,000~3,000台(小型乗用車換算)程度だった。その後、日本車の輸出は急速にかつ大幅に拡大したため、収容能力(小型乗用車換算)を4,000台、5,000台、6,000台積みへと徐々に大型化を進めた。さらに船の回転率を高めるために高速化され、大型化とともに効率輸送が追求された。

1971年 PCC かなだ丸竣工

商船三井初のPCC
載貨台数(小型乗用車):2,000台

  • 1時間に約250台のペースで積み込みこんだ。
  • カーデッキは9層で、船内は9階建ての駐車場ビルのような形状。船体隔壁の強度設計に腐心した。
1982年 PCC くろーばーえーす竣工

載貨台数(小型乗用車):4,518台

カーデッキは、12層。このうち、第4、第6デッキは、高さを調節できるリフタブルデッキを採用し、背高車輸送にも対応した。

1988年 PCC ETERNAL ACE 竣工

載貨台数(小型乗用車):6,500台

  • 世界最大級(当時)の自動車船
  • カーデッキは14層。
  • 積載台数を増やすため、船首の係船甲板の上にもカーデッキを設けている。
  • 現在の自動車船の原形というべき船型。
1980年代
PCTCの時代

1970年代末頃には、トラック、バス、建設機械、農業機器等の背高/重量貨物の輸送にも対応できる「PCTC(Pure Car & Truck Carrier)」が登場し、主流になっていた。1980年代なかば以降に建造された自動車船は、ほとんどがPCTCだ。日本からの自動車輸出(特に小型乗用車)が現地生産化によって減少する一方、背高/重量貨物への輸送需要が増加してきたためである。

PCTCの特徴は、デッキの高さを調節できるリフタブルデッキを標準装備していること、建機/重量車両を積み込むためにデッキやランプウェイの強度を高めていることである。乗用車ばかりでなく背高車/重量物等も混載できるようになったことで、輸送のバリエーションが広がり、より柔軟性のあるサービスを提供できるようになった。

1997年 PCTC POLARIS ACE竣工

載貨台数(小型乗用車):4,100台

  • RVなどの背高車のスペースを70%とし、建設機械などの重車両の積載に十分対応できるよう、ランプウェイの強度を80トンとした。
  • 中南米、豪州、中東などほとんどの航路に就航可能な、自動車船としては中型規模の船型。

カーバルカー

穀物などのばら積み貨物と自動車の輸送を兼用できる船のこと。ホールド内に可動デッキが装備されたシングルデッキのバルクキャリアを基に設計された。

1965年に竣工した「追浜丸」がその先駆け。船内の可動デッキを取りはずし、シングルデッキにすることで、ばら積み貨物の輸送を可能にした。自動車の荷役は、エレベーターやカーリフターで行い、ばら積み貨物荷役のためクレーンを備えている。

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LO/LO(Lift-on/Lift-off)方式

輸送数量が少なかった時代は一般貨物船(在来船)で輸送され、1台ずつクレーンで積み揚げされていた。荷役時間がかかるうえに車体を傷つけやすく、積みつけスペースを余分に必要とした。

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RO/RO(Roll-on/Roll-off)方式

船尾側のスターン(ショア)ランプと船体中央に位置するセンターランプと呼ばれるスロープを岸壁に渡し、自動車などの自走式貨物を船内に運ぶ方式。現在の自動車船はすべてこの方式。
ランプから船内に入り、インナースロープを通じて各カーデッキに積み付ける。船内をぐるぐる回らずランプからそのままジャンピングスロープで一気に上まで上がる方式は、荷役時間のロスがなく、回転が少ないため事故も少ない。

スターン(ショア)ランプ
船内 ジャンピングスロープ

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リフタブルデッキ

通常のデッキでは乗用車は積めるが、バスやトラック、重機だと背が足らなくなる。
とは言え始めから天井を高くとる=空けておくのはスペースがもったいない。
そのため高さ調節可能なリフタブルデッキを採用し、なるべく乗用車を多く積載できるよう、大きな車が来れば吊り上げて高さを調節する。
船の中にリフトカーを備えリフタブルデッキをプッシュして押し上げ、デッキの高さを調節する。

リフトカーによるリフタブルデッキ押し上げ
リフタブルデッキを上げた状態

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