グローバルな
社会インフラ企業へ
進化し続ける。
― 使命をやり遂げることが、
私の信念です。
代表取締役 社長執行役員

本メッセージは、統合報告書「MOLレポート2026」
に掲載した内容を転載しています。

任された使命はやり遂げる ― これは、私がこれまでのキャリアを通して重視してきたことです。私は、2026年4月に社長に就任しましたが、それまでの間はコンテナ船事業を中心に海運の異なる事業領域を担当し、またロンドンや香港をはじめ複数の海外フィールドにおいても課された使命に対してベストを尽くした自負があります。
就任と時を同じくして「BLUE ACTION 2035」のPhase 2がスタートしましたが、実は、本計画を練っていた2022年度には経営企画担当として策定に当事者として関わっており、今回、やり遂げる責任を担う立場となりました。
改めて「BLUE ACTION 2035」の狙いをご説明します。まず、なぜ13年もの長期計画を立てたのかという点ですが、その背景には2021年から2022年にかけて当社グループが経験した、劇的な立ち位置の変化があります。リーマンショック以降の10年余り、海運業界は不況に苦しみ、防衛的な打ち手に追われる停滞期にありました。それが、コロナ禍を契機に世界の物流が大きく変調し、当社は2021~2022年度の2年間で経常利益約1兆5,000億円、過去30年分を凌駕する規模の利益を計上したのです。
この時に私たちは、得た利益をそのまま海運業に再投資するという道を選びませんでした。それは2000年代の好景気時に各社が一斉に船に再投資し、リーマンショック後の長く深い市況低迷を招いてしまったという過去の反省があったからです。そして、船舶のライフサイクルや脱炭素化の潮流、さらにはポートフォリオの組み替え等を実行するには、長期視点で経営を行う必要があり、超長期ともいえる13年間の経営計画となったのです。そこで定めた当社グループの目指す姿は、すでに明確です。それは端的に申し上げると、グローバルな社会インフラ企業となり、大きく飛躍することです。 Phase 2以降、私に期待されているのは決めた方向に向かって、平たく言えば「着実に進める」こと、つまり企業価値向上に向けて、社会価値を伴いながらも経済的な成果を生み出すこと、その一点に尽きます。
Phase 1にあたる2023~2025年度の3年間を「変革と拡大」と位置付け、将来を見据えた成長投資を実行してきました。海運業とは元来、市況のボラティリティが激しい産業で、市況が良い時にすべての投資を船に振り向ければ、自らそのボラティリティを取りに行くことになります。ですから私たちは海運の中でも比較的ボラティリティの少ない分野に傾斜配分し、加えて海運業と親和性のある非海運事業にも投資を広げ、市況に左右されにくい事業構造への転換をPhase 1で一気に進めました。
結果として、当初計画1.2兆円の投資に対し、事業機会を積極的に捉えて約2.0兆円を実行し、うち約1.6兆円を安定収益型の事業領域へ振り向けました。市況享受型と安定収益型のアセット比率は当初目標の40:60を上回る水準でリバランスを達成し、財務KPIである税引前当期純利益でも3年間の平均で3,290億円と、目標としていた2,400億円を上回ることができました。投資の中身としても、当社の強みであるLNGバリューチェーン事業への投資に加えて、欧州および米国でケミカル貨物を中心に取扱う大手タンクターミナル会社であるLBC社の子会社化、ケミカル船と併せたケミカルロジスティクス事業が新たな収益の柱となり得る事業領域となりました。また、洋上風力・アンモニア・メタノールなど脱炭素分野への布石も着実に積み上げることができています。 2035年に目指す事業ポートフォリオに向けた基盤は、計画を上回るスピードで整備が進捗しました。また、足元でインフレが進行する局面においても、投資コストが本格的に上昇する前の段階から先行して投資を進めることができたと認識しています。
しかし、アセットを買うだけでは、事業は前には進みません。新規事業や、海外で地域に根差した事業を進めていく中では、従来の組織だけでは十分に動かしきれない局面に差しかかっています。投資した事業の収益を早期に獲得し、人財と組織の力で稼ぎ続ける構造へと磨き上げていくことがPhase 2での課題です。
課題への打ち手をご説明する前に、改めて当社グループの強みを考えてみましょう。当社グループは、海運の主要なセグメント・船種をほぼ網羅する、いわゆる海運コングロマリットです。日本では昔から「総合海運」と呼ばれてきた業態ですが、世界的に見れば海運セグメントごとに専業化したプレイヤーが一般的で、当社のような業態はむしろユニークな立ち位置にあります。
この姿が形作られたのは、当社グループのルーツに因るものです。1950~60年代以降、輸出も輸入も船に頼る島国・日本の経済成長を支えるなかで、複数の船種を束ねて事業を営む業態が形成されました。1980年代以降は日本にとどまらず海外市場にも目を向け、いまでは欧米はもちろん、中国・インドといった主要市場のすべての船種で大手としての地位を築いています。海運不況期も含めて、複数の船種を運航する腕を磨き続けてきたこと ― このオペレーション力は紛れもなく当社グループの強みであり、財産です。
「BLUE ACTION 2035」とは、そうした強みの上に、海運から派生し、海運と親和性のある事業領域、すなわち浮体式洋上設備・タンクターミナル・陸上物流・不動産、さらには低・脱炭素事業といった分野を本格的に積み重ねていく計画です。つまり当社グループの長い歴史の中で培った強みに、事業の領域拡大で得られたビジネスパートナーやバリューチェーン等が持つ強みや財産を融合させることで目指す姿を実現していく考えです。そして、グループビジョンに掲げる「グローバルな社会インフラ企業」という言葉には、海運コングロマリットから、海運を起点とする幅広いコングロマリットへと変革するという想いが込められています。
* シクリカルグロース
市況の循環的な波の影響を受けつつも、中長期的に持続的な成長を遂げるモデルを指します。
ビジョン実現に向けては、Phase 2の5年間(2026~2030年度)で当社グループは経営の重心を「変革と拡大」から「成果実現」へとシフトさせます。Phase 2において私たちは3つの重点テーマを掲げていますが、とりわけ「稼ぐ力を磨き上げる」ことが重要なテーマです。Phase 1で先行投資した事業や新造船はこれから順次稼働・竣工し、収益化のフェーズを迎えます。Phase 2からは事業区分を見直し、これまで「市況享受型」と「安定収益型」の2つで括っていたものを、コンテナ船事業からなる「市況享受型」、ドライバルク・タンカー・自動車輸送事業などの「ハイブリッド型」、LNGなどの長期契約を主体とする定期用船事業や非海運事業からなる「安定収益型」の3区分に組み替えました。Phase 1では安定収益型のリバランスに重心を置きましたが、Phase 2ではそこに加えて、ハイブリッド型における戦略的なリスクテイクとアップサイドの獲得を狙いに行きます。市況が良い時には市況享受型、ハイブリッド型のエクスポージャー部分で利益の上振れを取りに行き、悪い時にはハイブリッド型の安定部分と安定収益型で底割れさせない。この両立を本気で狙うのが、 Phase 2の構えです。
Phase 2で「成果実現」を果たす上で最も大事だと考えているのが「スピード」です。海運業において成否を分ける大きな要因は、他者に先んじてバリューチェーンを変革することです。Phase 1における投資によって各事業の方向性が鮮明になってきた中で、Phase 2においては多少負荷がかかりますが、巡航速度よりも少しスピードを上げ成果を上げることが肝要です。そしてもう一つの要点は、「アウェーで勝てる力」です。 Phase 2では東南アジアから南アジア・東アフリカにかけた環インド洋地域は、当社グループにとっての最重点エリアとするなど、地理的な広がりも意識しています。ホームグラウンドの日本市場だけでは到底目標は達成できませんので、グローバルな次元で勝てるようになる必要があります。
そしてPhase 2は、その先のPhase 3 (2031~2035年度)を見据える期間でもあります。足元では脱炭素の機運がやや後ろ倒しになっていますが、中長期のトレンドが変わったわけではありません。Phase 3の期間では再び脱炭素対応のための大規模な船舶投資の塊が訪れる可能性が高く、それに備えるためにも、Phase 2のうちに基礎営業キャッシュフローを積み上げ、自己資本比率40%程度の財務余力を維持しておくことが不可欠です。
私としては今後、Phase 1において積み上げた安定収益型事業を中心に全体としての下方耐性を確保しながらも、適切にエクスポージャーも取ることでアップサイドも獲得する、言い換えれば、景気変動に連動して業績の波は多少あるものの、長期的には持続的に成長する「シクリカルグロース*」となる姿を皆様にお見せしたいと考えています。
* シクリカルグロース
市況の循環的な波の影響を受けつつも、中長期的に持続的な成長を遂げるモデルを指します。
Phase 2における3つの重点テーマには「確かな経営基盤を築く」を加えました。とりわけ「成果実現」を果たす、すなわち事業の持続的成長を実現する土台は、人と組織の力に他なりません。そして、先ほど述べたように、個々の事業をオペレーションする力は、いまも変わらない当社の財産です。一方で、大きく舵を切ったポートフォリオ変革のなかで、事業変化に合わせた個々のスキルの向上や、当社グループに新たに加わってくれた人財との化学反応もあります。こうした取り組みを通じて、当社グループの組織は、多様な人財が力を掛け合わせ、新しい価値を生み出せる形へと、着実に変わりつつあると感じています。
私が特に意識しているのが、本社と海外組織の関係です。当社グループの広がりを本当の意味でグローバルに支えるためには、本社の人財だけでなく、各地域・拠点の人財が主役として動ける組織でなければなりません。私は人財の多様性といった点も、単に日本人か外国人かといった単純化された構図で語られる話ではないと考えています。私たちが掲げる「グローバルな社会インフラ企業」という考え方に共感し、貢献いただける方々に、出身や属性によらずもっと集まってきていただきたいと考えています。あわせて、女性活躍の推進も当社グループの持続的成長に不可欠な経営課題と捉えています。多様な人財一人ひとりが能力を最大限に発揮することで、当社グループの持続的な成長および企業価値の向上を実現すべく、積極的に取り組んでいきます。
Phase 2の戦略に合致させる形で見直したのが、株主の皆様への還元方針です。当社の株価純資産倍率(PBR)は2026年3月末時点で0.78倍と、依然として1倍を下回る水準にあります。これは投資家の皆様の視点として、海運業は「市況が良い時は業績が良いが、悪い時は厳しい、だから投資しにくい、結果として相対的に評価が上がらない」という、私たちから見ても好ましくない循環があるためだと考えています。同時に、私たちの成長ストーリーの発信が、投資家の皆様にまだ十分には届いていない、ということの表れだと思います。
Phase 1での3年間、当社グループは長期的な成長余地を確保するために、先述の通り、積極的に成長投資を実行しました。そこでPhase 2では、その方針を次の段階に進め重点テーマの一つに「バランスのとれた資本配分」を掲げ、成長投資・財務健全性・株主還元を同時に実現し、資本効率を向上させます。具体的には、投資と財務基盤維持のバランス、不動産を含めたアセットリサイクル、株主還元の強化を図っていくこととしています。株主還元策の基本的な姿勢としては、安定収益の積み上げに合わせて、配当を予見性高く、安定的に拡大させていく方向への明確なシフトです。
具体的には、2026年度より1株当たり205円を起点とする「累進配当」を導入します。累進配当とは、配当の絶対額を原則として増配でつないでいくという考え方で、 Phase 1の成果として実現した安定収益型事業の積み上げに対する当社グループの自信の表れになります。これにより、「市況が悪い時でも下限がある」という安心感を株主の皆様にお届けすることができると考えます。その上で、各年度の純利益ベースで総還元性向40%を目途とする機動的な自社株買いを通じて、市況のアップサイドも株主の皆様へ還元していきます。累進配当によって配当の予見性を、自社株買いによって資本効率を、それぞれ高めていく ― これは、海運コングロマリットだからこそ採れる打ち手だと考えています。例えば、専業化したプレイヤーであれば市況の不安定さに対する打ち手が限られますが、当社グループは複数のセグメントを束ねているからこそ、市況が悪い時でも底割れせず、良い時には上振れを稼ぐ構造を作れるからです。
毎年コンスタントに予見性のある形で利益と配当を積み重ねることができれば、バリュエーションの修正は必ず起こると、私は信じています。中長期的にはPBR1倍を確実に超え、その先1.2~1.5倍の水準を視野に入れていきたいと考えており、長期視点で当社グループに共感いただける機関投資家・個人投資家の皆様を、Phase 2を通じて着実に増やしていく考えです。

今日では、地政学リスクの高まりによって、皆様の生活に必要なモノ・資源を安全・安定的に運び、世界の人々の「あたりまえの日常」を支える「インフラ」としての海運業の社会的な価値を改めて感じることが増えてきました。そうした中で当社グループが社会に提供できる価値を考えると、それは「信頼」と言えます。実際に社長に就任して以降、これまでにお会いできなかった多くの方々と対話する機会を持ち、その中で「商船三井グループが信頼されている」ことに実感を持ちました。そうであるから、お客様には「大事な荷物の輸送を任せよう」と思っていただき、社員には「ここで働きたい」と感じてもらえるのです。
当社グループの業務を支える人財は約2万人ですが、そのうち約半数は船員であり、その大半をフィリピンやインドの方々が担ってくれています。就任1ヶ月後にインドへ視察に訪れたのですが、そこでも彼らが「一流の船会社だから勤めたい」「MOLの船に乗りたい」と選んでくれたことを知りました。そうした「信頼」という土台があるからこそ、すべてのステークホルダーに選ばれ続ける企業になれると考えています。
今はまだ、日本由来のグローバルな船会社、またはグローバルなインフラ事業を営む日本の会社と多くの方に評価されている段階だと思います。私としては今後、「グローバルな社会インフラ企業」という世界的にもユニークな立ち位置を、事業の実体と成果をお示しし、海運業界の一社、日本企業の一社という大きな括りの中で評価される姿から、もう一歩抜け出し、枠を越えた魅力を高めていきたいと考えています。
今回ご説明したように「BLUE ACTION 2035」は、経済価値と社会価値を一体的に創出し、グループビジョンの実現へ向かうための長期計画です。私が投資家・株主の皆様にコミットできることは、長期視点の経営を手放さず、決めた道筋を着実に進めていくということです。皆様におかれましては、当社グループの今後にご期待いただきたく存じます。
本メッセージは、統合報告書「MOLレポート2026」
に掲載した内容を転載しています。