第一話 自動車船物語「革新的技術の宝石箱」


自動車船の

2009年9月公開

画期的な風圧抵抗軽減型の自動車船の竣工、自動車船としては日本初の太陽光パネルの設置など、商船三井は多くのアイデアを時代に先駆け実現してきました。

21世紀 エコ・シップの時代

できるだけ多くの自動車を積載することを追求して、積荷スペースの階層を増やした自動車船は、あたかも海を航行する高層駐車場のような形になっていった。

ビルのような船は風圧抵抗が大きく、目標進路に対して斜めに進む「斜航」が生じる。「斜航」は燃費効率の低下を招く。この点に着目し、商船三井は風洞実験による解析データをもとに、風圧をまともに受ける船首の形状を流線型にして「斜航」を大幅に軽減する新船型を創出した。

2003年商船三井は、斜航を軽減することで、省エネとスピード向上を実現した新船型の自動車船「COURAGEOUS ACE」を竣工させた。竣工後の航海実績で省エネ効果は約5~8%。スピード向上で、運航スケジュールも安定し、輸送サービスの質をいっそう向上させた。

「COURAGEOUS ACE」は、2003年のシップ・オブ・ザ・イヤーを受賞。2004年には船型を意匠登録、2006年には日本と韓国で特許を取得した。
「COURAGEOUS ACE」の就航以降、商船三井の新造自動車船は、すべて船首をラウンド形状にした。そのほかにも、多くの技術を追加し、更なる機能向上を目指し続けている。

2003年 COURAGEOUS ACE 竣工

載貨台数(小型乗用車):6,400台

  • 船首方向からの風圧抵抗軽減のため、船首端部を斜めにカットしラウンド形状とした。
  • 自動車積載能力を最大限に広げるため、上甲板にもカーゴスペース(ガレージデッキ)を設けているが、船側部に段差(隅切り)をつけた。
    これにより「斜航」を軽減し燃費効率を高め、省エネルギーを実現することで、船舶が排出するCO2、NOx、SOxを削減し、サービススピードも向上させた。
2005年 EUPHONY ACE 竣工

載貨台数(小型乗用車):6,400台

運航効率の向上と、環境保全の強化のため、いろいろな工夫を重ねてきた商船三井が、2005年に時代の先端をいく“エコ・シップ”として竣工させたのが「EUPHONY ACE」。


「EUPHONY ACE」の主な特徴

技術の宝庫とも言うべき商船三井の自動車船。
次項では、これまでの技術の集大成として、私たちが5年後に実現可能と考える自動車船の未来像を提案していく。


斜航

他の船型に比べ背が高い自動車船は風に弱く、スピードが落ちやすいことは容易に想像がつく。斜航とは、風にあおられ斜めに進むことをいう。風で斜めに進むと、水の抵抗が劇的に増えることが理論と実験で証明されている。

2001年11月には「ねぷちゅーんえーす」で斜航の実船調査を行い、2002年には横風と斜航の関係を位置づけて抵抗減の数値を出し学会にも報告した。斜航解消へは、船側部に段差をつける(隅切り)ことで、理論上4~5%減の結果も推定できた。就航後の解析ではその倍近くの効果が出ている。風は自動車船の空気抵抗のみならず、水の抵抗も増やす作用を及ぼしていた。

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風圧抵抗軽減船型

2003年に竣工した「COURAGEOUS ACE」を踏襲。船首方向からの風圧抵抗軽減のため、船首端部を斜めにカットしラウンド形状とした。自動車積載能力を最大限に広げるため、上甲板にもカーゴスペース(ガレージデッキ)を設けているが、船側部に風の通り道を確保し、直進性を向上させた。この新船型で、燃費効率を高め省エネルギーを実現、船舶が排出するCO2、NOx、SOxを削減し、サービススピードも向上させた。

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燃料タンクの二重底構造化

2010年には世界中の全ての新造船に強制されるが、先駆けて2004年に取り入れた。
万が一の事故に遭遇しても、燃料油が海に流れない設計。

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断熱ペイントの使用

自動車船の最上層は極めて暑いため、甲板に断熱ペイントを施した。80℃にもなる層内を40°Cくらい下げ、荷役中の作業環境を改善している。

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太陽光パネル

発電量10kw。一般家庭10軒分。
船内のカーデッキ電灯の電力に使用している。
上甲板の広い自動車船としては世界初の試み。
この後2008年5月竣工“SWIFT ACE”では20kwに進化し、本格実用搭載を目指して塩害、振動など船特有の現象で有効に発電能力を発揮できるかを検証中。

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省エネ電球の使用

60w白熱灯電球を12w節電型電球に交換することで、消費電力を約80%削減。

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生ゴミ処理機の搭載

船内で発生する生ゴミを、処理機にかけて特殊肥料化したあと陸揚げする。
契約肥料会社で菌体有機肥料として再生している。

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排ガス浄化装置

排ガスに、木材抽出油を噴霧し、粒子状物質をフィルターに付着させて、排出を軽減する。
また、排ガスを排出するファンネル(煙突)は、自動車船の左舷側としている。自動車船は、通常右舷を岸壁につけるため、岸壁からできるだけ遠くにするという配慮である。

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PBCF搭載

水中でスクリュープロペラが回転する際に発生する渦を推進力に変え燃費効率を約5%向上させるPBCF(プロペラ・ボス・キャップ・フィンズ)を搭載している。

PBCFは、商船三井を中心とした企業グループが開発したプロペラ効率改善装置。船種・船型を問わずどのような舶用スクリュープロペラにも取り付け可能で、2011年8月には受注実績は世界中で2000隻を突破している。現在、世界13ヶ国で特許成立の実績があり、国内では日本舶用機関学会賞、日本造船学会賞、及び日本機械工業連合会優秀省エネ賞を受賞し、世界の研究機関においても約5%の省エネ効果が検証されている。

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