第三話 舶用エンジン物語「省エネ技術と大型化の追求」


舶用エンジンの

2010年6月公開

船舶の大型化とともに舶用エンジンの大型化も進んでいます。
このページでは、世界最大級の舶用エンジンと、世界最大級の鉄鉱石専用船「BRASIL MARU」を紹介します。

現在の大型エンジン

船舶の大型化とともに、エンジンの大型化も進みました。

エンジン写真のエンジンは「高さ約15メートル、長さ約24メートル、総排気量は約2200万cc、約6万kW、(8.5万馬力)」。

「BRASIL MARU」に搭載されているエンジンより更に大きく、大型トラックに比べると約230台相当の出力があります。

船舶用のエンジンは1ヶ月以上休むことなく連続運転することもあり、耐用年数が20年以上であることを考えると、その信頼性の高さが分かります。
このような大出力機関は大型コンテナ船などに多く採用されています。

世界最大級舶用エンジンとトラック用エンジンの比較

主要目 大型舶用
ディーゼルエンジン
大型トラック用
ディーゼルエンジン
エンジン形式 2サイクル 4サイクル
シリンダ数 11気筒 6気筒
ピストン径 980mm 120mm
総排気量 2200万cc 1万cc
最高出力/回転数 8万5000馬力/94回転 380馬力/1800回転
重量 2000トン 1トン
大型舶用ディーゼルエンジン(三井‐MAN B&W 11K98MC)

電子制御機関の導入

最近では船舶用の大型ディーゼル機関の分野においても、電子制御機関の導入が急速に進んでいます。電子制御を採用することにより、シリンダーへの燃料噴射タイミング、排気ガスを排出する排気弁開閉タイミングやシリンダ注油タイミングを適切に調整できます。
これで燃料油・シリンダ油の消費量低減や、排気ガスに含まれる窒素酸化物・ばい煙を削減し、環境負荷低減が可能です。

世界最大級の鉄鉱石専用船「BRASIL MARU」

エンジンの大型化と船舶の大型化は、車の両輪。
ISHIN-Ⅲの原型となった、世界最大級、新鋭の鉄鉱石専用船「BRASIL MARU」をご紹介します。

BRASIL MARU

船種:鉄鉱石専用船
全長:340.00m
型幅:60.00m
型深さ:28.13m
総トン数:160,774トン
速力:15.0ノット
主機:ディーゼル機関(23,640kW) 7S80MC-C 1基
積載量:鉄鉱石 327,180トン

2007年12月7日、三井造船千葉事業所で竣工。
2008年1月11日ブラジルのポンダ・デ・マデイラ港に入港、鉄鉱石を満載し1月21日に出航、新日本製鐵大分製鐵所に、3月7日に初入港しました。
高い運航効率を実現した技術と革新性から、シップ・オブ・ザ・イヤー2007を受賞しました。


「BRASIL MARU」の主な特徴

省エネと大型化を追求してきた舶用エンジン。
次項では、これまでの技術の集大成として、私たちが5年後に実現可能と考える大型船とそのエンジンの未来像を提案していきます。


BRASIL MARU シップ・オブ・ザ・イヤー 2007受賞

商船三井が運航する鉄鉱石専用船「BRASIL MARU」は、(社)日本船舶海洋工学会が選考する、その年に竣工した船舶として推薦された船舶から、最も優秀な船舶に授与される「シップ・オブ・ザ・イヤー2007」に選ばれた。

選考委員会は、選考の経過を
「鉄の生産に大きな影響を与える鉄鉱石の輸送コストの削減という大きな命題を克服したこと。溶接技術にUITを採用し大型船の疲労強度の改善が高められたこと。 ブラジル移民100周年の年に当たり、移民船ぶらじる丸のⅢ世であるBRASIL MARUを、そのイノベーティブの意味も含めて選んだ。」 としている。

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時代の先駆け。輸送モードの効率化で需要に応える大型船型

世界最大級・載貨重量32万トン・日本―ブラジル間のシャトル運航実現。
海運界に超大型鉄鉱石専用船の一大ブームを引き起こした。

輸送効率の良い世界最大級の船型

ブラジルから日本への鉄鉱石輸送を、安定的かつ効率的に行うために、荷主、船主、造船所、運航者が協力して、1年半をかけ検討を行った最適船型。

積み地・揚げ地の港湾設備の能力を最大限に活用した世界最大級の大型船。

数字で見るBRASIL MARU
BRASIL MARU喫水 21.6メートル
水深 大分港 27メートル
ポンタ・デ・マデーラ港 22メートル
ツバラオ港 20メ-トル+潮汐
建造効率 建造最大船型 VLCC(30万トンクラスのタンカー)とほぼ同じサイズ
就航後のメンテナンス 世界の主要修繕ドックにて受け入れ可能なサイズ

30万トン級鉄鉱石専用船の草分け・海運界へ波及

BRASIL MARUを皮切りに、現在30万トン級の鉄鉱石専用船が世界で50隻以上も発注されており、本船型が今後の鉄鉱石輸送形態の先駆けとなっている。

日本-ブラジル間のシャトル便

鉄鉱石を産出国から消費国へ運ぶ間には、貨物を積まずに運航する区間が発生する。
従来は、この空船区間をできるだけ短縮するために、オーストラリアから石炭をヨーロッパ向けに運び、その後にブラジルから鉄鉱石を日本向けに輸送する運航ルートが一般的だった。

BRASIL MARUは、従来の常識を覆した日本-ブラジル間のシャトル便。
逆に航海数を増やし年間輸送量も増加させた。

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CO2排出量20%減を実現。環境にやさしい大型船型

大型化による環境負荷低減(CO2の排出量は 単位輸送あたり約20%減)。
燃料油タンクの完全二重船殻化・プロペラ省エネ装置装着。

CO2を20%排出量低減

超大型化の実現により、単位輸送あたりの環境負荷を低減(CO2の排出量は、従来のケープサイズの約20%減)している。

  載貨重量(トン) 年間輸送量(トン/隻数) 使用燃料(トン) CO2排出量(トン)
従来のケープサイズ 17万 144万/1.9隻 34,500 107,000
BRASIL MARU 32万 144万/1隻 28,000 87,000

↓
従来のケーブルサイズより CO2 20%減

国際規則を先行導入した燃料タンク二重構造

規則を先行導入して燃料油タンクを完全に二重船殻構造とし、燃料油の漏洩リスクを低減した。

排ガス環境基準を満たすエンジン

主機関及び発電機関には国際海事機関(IMO)の排ガス環境基準を満たすエンジン採用。

省エネ装置による燃料消費の低減

省エネ装置MIPB(Mitsui Integrated Propeller Boss)の装着による消費燃料の低減。

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最新鋭の造船技術で安全性を追求した革新的な船舶

溶接部には画期的な疲労強度改善処理を行い、疲労強度を2倍以上とした。
波浪時の船体の疲労強度を解析し、長期間安全に使用可能な船型を追求。

最先端のコンピューターシミュレーションを駆使した船型開発

設計に際しては、コンピュータでシミュレーションする最先端の技術を駆使して、環境のみならず安全性にも十分に配慮した完成度の高い設計を行った。

設計の具体的な内容

  • 船型設計のために船の周りの水の流れのシミュレーションを行い、直進性能と操縦性能を高めた。
  • 通常の規則要求に加え、波浪中での船体運動のシミュレーションを行い、疲労強度解析を実施し、長期間安全に使用可能なものとした。

疲労強度改善処理で溶接部の疲労強度を2倍以上に

溶接部にUIT (Ultrasonic Impact Treatment)と呼ばれる、画期的な疲労強度改善処理を行い、適用部分の疲労強度を2倍以上としている。

疲労特性向上メカニズム

UIT処理後(下図)において溶接端部の形状が滑らかになり更に金属組織が微細化していることが確認できる。

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