高度安全運航支援分野


当社運航船の航海・機関関連ビッグデータの利活用 「FOCUSプロジェクト」

運航中の当社関係船の実海域における航海・機関関連のビッグデータを利活用し、運航船の安全運航・環境負荷低減の深度化を目指す「FOCUS(Fleet Optimal Control Unified System)プロジェクト」を現在、推進しています。2019年8月現在、当社運航船約170隻において、航海・機関データの収集および船陸間共有が可能となっています。

プロジェクトの第1弾として、2019年5月に船舶管理強化アプリケーション『Fleet Viewer®』をリリースしました。当アプリケーションにより、実運航中の本船から6,000点にも及ぶセンシングデータを高頻度(1分間隔)で収集し、各機器の運転状態、船舶の位置、海気象などの情報を船陸間で共有することを可能にしました。また、ユーザインターフェース側はユーザが使いやすいように個々に機能をカスタマイズすることができ、そのカスタマイズ内容はユーザ間で共有可能なので、各ユーザ間での知恵や技能の共有や業務効率化を進めることが可能です。

プロジェクト第2弾として、2019年10月に燃費削減に資する就航解析アプリケーション『Fleet Performance®』をリリースしました。当アプリケーションは、収集した運航船のデータから推進性能などを分析・比較することにより、さらなる環境負荷低減の実現を目的としています。

今後も「FOCUSプロジェクト」を通じて、当社運航船の機関状態診断・故障予兆診断技術の活用によるCBM化(*1)や運航船の音声・映像情報を陸上へ配信することによる洋上の見える化、デジタルツイン技術(*2)の活用による船舶管理の強化や運航の最適化を計画しており、実運航データを活用した有効性のあるアプリケーションの開発への展開を目指しています。

(*1) Condition Based Maintenance
状態基準保全の意。従来の一定期間毎に保守をするTBM(Time Based Maintenance、時間基準保全)と異なり、装置や部品を監視し、保守が必要となる可能性の高い部位を分析・特定の上で適切なタイミングで保守する手法。

(*2) デジタルツイン技術
物理世界の出来事をデジタル上にリアルタイムで再現する手法。システム上に双子のようなシミュレーション空間を構築し、設計変更や個別カスタマイズによる最適化や状態診断・故障予兆などに用いられる。

FOCUS(コンセプト図)
FOCUS(構成図)

商船三井プレスリリース


機関の故障予兆診断「CMAXS」の取り組み

当社は、株式会社ClassNKコンサルティングサービスが提供する次世代型機関状態監視システム“ClassNK CMAXS”を当社運航船に順次搭載しています。

電子制御機関の早期異常検知による予防保全を行うことで、運航船の不稼働時間の最小化や、機器の整備計画をTBM(Time Based Maintenance)からCBM(Condition Based Maintenance (*1))に転換することでライフサイクルコストの最適化を行うことを目的としています。

機関メーカーである株式会社三井E&Sマシーナリーのe-GICS や株式会社IHI原動機(旧株式会社ディーゼルユナイテッド)のLC-Aで培った技術の運用に加え、ClassNKの”CMAXS”による機械学習を利用した高度なアルゴリズムを用いることで、乗組員が気づきにくい軽微な状態の変化を検知し、異常の予兆を船上でも把握します。また、設計思想を持つ機器メーカーと、機器運用を行っている乗組員が、当システムを通じてコミュニケーションを図ることで、双方にとって新たな気づきを創出し、さらなる安全運航を目指しています。

本船の安全運航を支える機器は数百にも上るため、本取り組みについては主機メーカーのみならず各機器メーカーへも拡げていきたいと考えています。

(*1) Condition Based Maintenance
状態基準保全の意。従来の一定期間毎に保守をするTBM(Time Based Maintenance、時間基準保全)と異なり、装置や部品を監視し、保守が必要となる可能性の高い部位を分析・特定の上で適切なタイミングで保守する手法。

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振動センサ―による舶用回転機器異常の予兆検知

本プロジェクトでは、コンテナ船・自動車専用船および大型原油タンカーの重要補機(ポンプ・清浄機等)に専用の振動センサーを設置し、解析ソフトを用いて補器の状態監視を行っています。旭化成エンジニアリング株式会社が持つ陸上プラントの振動解析技術と、船舶IoTの一環として搭載しているリアルタイム船陸間通信のプラットフォーム「Fleet Transfer」とを組み合わせることで、船上だけでなく陸上でもタイムリーに状態監視および機器異常の早期予兆を検知することが可能になると考えています。

また、舶用推進主機・発電機の推進軸受用振動センサーについては一般財団法人日本海事協会の業界要望による共同研究スキームを経て、当社技術研究所保有の発電機エンジンを用いた摩耗試験をはじめ、本船運転時のデータを収集解析し評価を行っています。

本件は「船舶維新NEXT ~MOL SMART SHIP PROJECT~」の一環と位置付け、開発・運航を通して得られる知見やノウハウをさまざまな船種に生かし、船舶IoT・舶用推進プラントの技術発展と安全運航の強化に積極的に取り組んでいきます。

システムイメージ図

商船三井プレスリリース


他船画像認識技術の開発

当社は、株式会社センスタイムジャパンと共同で、新たな船舶画像認識・記録システムを開発し、当社グループの商船三井客船株式会社の「にっぽん丸」に搭載、実証実験を開始しました。

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自動離着桟システムの開発

当社は、三井E&S造船株式会社、株式会社三井造船昭島研究所および国立大学法人東京海洋大学と「船舶の自動離着桟の安全性に係る実証事業」(*)を実施し、自動離着桟システムの実用化を目指しています。

海難事故の8割はヒューマンエラーが占めています。船舶の自動・自律運航化は、ヒューマンエラーを大幅に削減し、海難事故の防止に大きく寄与すると期待されています。中でも自動離着桟は操船において難易度が高く、自動・自律化が望まれているため、本プロジェクトにおいて実現に向けて取り組んでいます。

本プロジェクトでは、シミュレーターのみならず実船を用いた自動離着桟を行うことにより、技術的課題を抽出し実用化のための検討を進めています。まずは、2018年12月から2019年2月にかけて東京海洋大学の汐路丸で実証試験を行い有用なデータを得られました。今後は大型内航フェリーでの実証実験も予定しています。

(*) 本事業は、国土交通省の自動運航船実証事業に採択されています。国土交通省では本事業などを通じ、自律運航船を2025年までに実用化することを目指しています。

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自動衝突防止に繋がる先進的な航行支援システムに関する研究

当社は、商船三井テクノトレード株式会社、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所海上技術安全研究所および国立大学法人東京海洋大学と「先進的な航行支援システムに関する共同研究」を実施しています。

具体的には、自動衝突予防援助機能(ARPA:Automatic Radar Plotting Aids)などの応用技術に繋がる、船舶の衝突回避アルゴリズムの一つである「相手船による航行妨害ゾーン(OZT:Obstacle Zone by Target)」の考えを導入した航行支援システムの開発を目指しています。

航海士は、まず対象物が見えている(認識できる)かどうか、その次に当該対象物が自船に対して危険を及ぼす可能性があるかどうかを判断します。そして、危険を及ぼす可能性があると判断された場合は、何らかの操船(変針や減速等)によりその危険を回避する行動をとります。「OZT」は、上述の対象物が見えるかどうかと、危険を及ぼす可能性を判断する支援を行います。

従来の衝突回避は、航海士の経験と知識に基づいた熟練作業ですが、船舶の衝突回避アルゴリズムであるOZTの概念を導入した航行支援システムを活用することにより、自船が安全に航行することができる領域を見つけることができ、安全運航を適切に支援します。また、船橋(ブリッジ)から見える風景に相手船の位置を合わせて表示することで、どの方位に衝突の危険があり、危険対象がどの船舶かを照合することができます。

船舶自動識別装置(Automatic Identification System:AIS)やレーダー情報と船橋からのカメラ映像を重ねて表示する拡張現実(AR)や、OZTを複合的に活用することで自律運航や自動衝突防止に繋がる先進的な航行支援システムの実現に向けた研究開発に取り組んでいます。

相手船によるOZT:距離/時間による表示
(*) AIS情報により認識している本船を目標追尾(Target Traking:TT)しているもの。

動画は10倍速です。

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AR(拡張現実)技術を活用した見張り支援技術(AR航海情報表示システム)の開発

当社は、古野電気株式会社および商船三井テクノトレード株式会社と共同で、AR(拡張現実)技術を活用した航海中の操船を支援するシステムを開発しました。

このシステムでは、船舶自動識別装置(Automatic Identification System:AIS)の情報をベースに、自船周囲で航行する他船やランドマーク(例:海上に存在するブイ)などの情報をタブレットやディスプレイ上に表示します。あわせて、船橋からの風景を撮影した映像も表示し、ARを用いて重ねて表示させることで、運航中の乗組員の操船や見張りを視覚的にサポートすることを可能にしています。

当社では2019年度から当社運航船への実搭載を開始しており、この技術などを活用して、さらなる安全運航を追求していきます。

航海情報のAR表示(日中:AR on/off比較)
航海情報のAR表示(夜間:AR on/off比較)

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VR(仮想現実)によるバーチャル訪船を可能とする「Vessel View VR」の導入

当社は、ナーブ株式会社のVRソリューションを活用したバーチャル訪船ツール「Vessel Veiw VR」を導入し、船舶をバーチャルに訪船することを可能にしました。

巨大な貨物船は、船内全域を見学するには多くの時間を要します。タンカーなど危険物運搬船は、特に甲板上では電子機器や火気の利用が制限されるため、訪船しても記録を残すことが困難です。また、長距離輸送に従事することが多い船は訪船機会も多くありません。そこで「いつでも」「どこででも」バーチャル訪船を可能にする「Vessel View VR」を活用することにより、従来の訪船における制限を緩和することに加え、危険物取扱船への安全な訪船も可能にしました。

現在は、自動車船、大型タンカー、LNG船、フェリー各1隻で、本ツールの導入によりバーチャル訪船が可能となっています。今後は、コンテナ船などの船種も追加し、本コンテンツを充実させることで、お客様への効果的なご説明に活用すると同時に、乗組員を含む社員の安全意識向上や教育に活用し、世界最高水準の安全運航の実現を目指します。

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ゴーグル型VR(仮想現実)による乗組員安全教育ツールの開発

当社は、株式会社積木製作のVR(仮想現実)技術を活用したゴーグル型乗組員安全教育ツールを開発しました。

コンテンツ「転落事故」の一部

VRの高い臨場感と没入感を利用して、不安全行動によって発生する船内の事故をリアルに再現し、さらにコンテンツ内で安全対策も明示することにより、現実では難しい状況の体験や訓練を可能にしました。また、持ち運びしやすいゴーグル型のVRを採用し、船内やオフィスなど場所を問わない安全教育を可能としています。

現在は、労働災害の一例として「転落事故」「クレーン吊り荷落下」「火災発生時の対策」などのコンテンツを揃えており、教育効果を確認しながら内容の拡充を進めています。今後は、各船への導入と疑似体験内容の拡充をさらに進めていき、船内事故の根絶に繋げ、お客様に安定した輸送サービスの提供を目指します。

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VDRデータの船陸間共有に向けた取り組み

当社は、日本無線株式会社及びJSAT MOBILE Communications株式会社と共同で、航海情報記録装置(VDR:Voyage Data Recorder)に記録されるデータを、大容量高速衛星通信サービス(インマルサット社の提供するFleet Xpress)を用いて、陸上と共有できるネットワークを構築することに、成功しました。

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海上気象観測の自動観測・自動送信システムの開発

現在、日本籍船は、気象業務法に基づき、気象庁に海上気象データを定期報告することが求められています。したがって、日本籍船では、航海士が航海中に船上で目視観測した海上気象データを”手動計測・手動送信”の手順で気象庁に報告しています。

当社は、スカパーJSAT株式会社、古野電気株式会社と、現在手動で行っている海上気象情報の観測・送信を、各種観測機器の開発により、自動観測・自動送信を可能とするシステムの開発を進めています。海上気象情報の観測データ数を飛躍的に増加させることにより、海上気象予測の精度を高め、船舶の安全運航に資するシステムとすることを目標にしています。

なお、本プロジェクトは、国土交通省の平成28年度「先進安全船舶技術開発支援事業」に採択されており、平成28年度から5か年計画で技術開発を進めています。