クルーズを楽しみ、
環境負荷も軽減できる
フェリーは公共交通機関として、運送会社などの法人客に加え、旅行や移動を目的とする一般客にも利用されている。
LNG燃料を使った環境負荷の小さい船舶を、フェリー事業にいち早く導入した理由。それは、商船で導入する場合よりも多くの方に、環境負荷の低減に取り組むMOLの姿勢を感じてもらうためだった。
TALK MEMBER
フェリー統括チーム
渡邉 和琴 コーディネーター
フェリーマーケティングチーム
楠井 一騰 チームリーダー
CHAPTER 01
2隻のLNG燃料フェリーがついに就航
国内初のLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」「さんふらわあむらさき」の就航が間近に迫っています。この2隻が導入されるに至った経緯を教えてください。
LNG燃料船への転換という構想は15年ほど前からあったのですが、コスト等の問題もあり検討中という状態が続いていました。しかし、2016年にパリ協定が発効し、世の中に環境負荷低減への意識が高まったことがきっかけとなり、MOLでも本格的な導入が加速していきました。
それで2019年に国内初のLNG燃料タグボート「いしん」が就航し、2023年には、LNG燃料フェリー2隻も就航することが予定されています。
グループ会社のフェリーさんふらわあが、大阪〜別府航路で現在運航している「さんふらわあ あいぼり」「さんふらわあ こばると」の代替としてLNG燃料フェリーは投入されます。2016年頃からフェリー事業に関わるチームを中心に情報収集や議論を重ね、ようやく具現化しました。
準備期間の約5年間には、どのような苦労や問題がありましたか?
燃料を重油からLNGに変える技術はすでにありましたが、燃料を供給する場所や仕組みが確立されていませんでした。LNG燃料船という新しい技術を、世の中にどのように受け入れてもらうかという課題もありました。
他にも関係各署との調整、様々な法律やルールをクリアするなど、多くの課題を解決する必要があり時間がかかりました。
フェリーが早い段階でLNG燃料化されたのはなぜですか?
LNG燃料船導入の最大の課題は、安定した燃料供給です。フェリーは定期船のため、燃料供給の仕組みを新設しやすかったというのが第一の理由です。
それから、フェリーが当社グループで保有・運航する内航船であるというのも大きなポイントでした。現地に足を運びながら、当社グループをあげての支援体制が組みやすく、様々な課題をスムーズに連携し、解決していくことができたと思います。
他の観点でいうと、世の中に与えるインパクトの大きさがあります。フェリーは公共交通機関として、運送会社などの法人客に加え、旅行や移動を目的とする一般客にも利用されています。そのため、LNG燃料を使った環境負荷の小さい船舶を、商船三井グループがいち早く導入したということを、商船で導入する場合よりも多くの方に、そして身近に感じてもらうことができます。
船舶のLNG燃料化は簡単なことではないですし、従来船よりコストもかかります。しかし、フェリーに展開することが、世の中の人たちの環境問題に対する意識を高める助けになり、またそうしたことをきっかけに、環境負荷低減の対策に追随する企業が増えていけば、経済面での課題も改善されてくると考えています。
CHAPTER 02
環境に配慮しながら船旅も楽しむ
LNG燃料フェリーを利用するメリットは何でしょうか? 環境面以外にもあれば教えてください。
従来型のフェリーは、重油燃料が燃焼する際に出る煙が船の外から見えましたが、LNG燃料フェリーはそれがないため、フェリーを利用するお客様に、よりクリーンな印象を持っていただけると思います。また旅客の皆様にとっては、新しい技術を導入して客室に揺れや音が伝わりにくい構造になったため、船内でより快適に過ごしていただけるようになりました。
これらのLNG燃料に変えたことによるメリットをより生かすために、今回の新造フェリーは従来のフェリーよりも個室も増やし、定員一人当たりの面積も広くなっていますのでLNG燃料船ならではの快適さをより多くの皆様に楽しんでいただけます。ちなみに3層吹き抜けのアトリウムにはプロジェクションマッピングを導入し、エンターテイメント性も向上させ、「カジュアルクルーズ」のコンセプトどおり、一層特別感のある船旅を演出します。
LNG燃料フェリーには、直接の顧客である運送会社だけでなく、その荷主であるメーカーからのお問い合わせも数多くいただいております。“環境問題への意識を高めていかないと、ビジネスの面で遅れをとる”、そういう時代に入ったと感じますね。
今後、LNG燃料フェリーはさらに増えていくのでしょうか? また他の船舶もLNG燃料化されていくのでしょうか?
グループ会社である商船三井フェリーの苫小牧〜大洗間の定期航路でも、2025年に2隻のLNG燃料フェリーが就航する予定です。また商船三井では、フェリー以外でもLNG燃料船を展開し、2030年までに90隻保有の目標を立てています。
ただ、LNG燃料フェリーの就航は、環境負荷軽減の第一歩ではあるものの、CO2排出削減量は、従来比の25%程度だと考えると、まだまだ削減しなくてはなりません。LNG燃料船への転換は、必ずしもゴールではありません。
環境負荷をより低減させる取り組みや技術の進化は、今後も続けていく必要があると考えています。