地球温暖化の防止
2015年12月にパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、パリ協定が採択されました。世界共通の長期目標として世界の平均気温上昇を2℃未満に抑える(1.5℃に抑えることがリスク削減に大きく貢献とも言及)ことを目標とし、世界全体で今世紀後半には、人間活動による温室効果ガス(GHG)排出量を実質的にゼロにしていく方向が打ち出されました。
国連気候変動枠組条約では、国際海運における温室効果ガス(GHG)排出抑制策は国際海事機関(IMO)において検討することとされています。船舶は世界中の海上を移動するため、一国だけで対処することができない問題が多く、国際的な取り組みが不可欠だからです。2018年4月、IMOにてGHG削減目標として「2030年まで効率ベースで40%削減(2008年比)、2050年までに総量ベースで半減(2008年比)」が採択されました。
- 次世代型自動車船「FLEXIE」
- 新型風防を開発、当社コンテナ船に設置 ~船首に設置して風圧抵抗を低減、CO2削減効果の検証を開始~
- 低摩擦型船底塗料
- 高効率排熱エネルギー回収システム搭載船
- 「ECO SAILING」の徹底
- 20,000TEU 世界最大級のコンテナ船
- 地球温暖化防止に関する賛同
- 船舶ゼロ・エミッション代替燃料のワーキンググループ発足
次世代型自動車船「FLEXIE」

2018年3月、次世代型自動車船「FLEXIE」シリーズの1番船である、“BELUGA ACE”が竣工しました。同シリーズは、英語で“柔軟さ”を意味する「FLEXIBLE」をモチーフに、リフタブルデッキの高さ設定の自由度を高めることで積載時の効率性を実現する本船の特長と、多様化するお客様の輸送ニーズに対応する当社の営業スタイルを表しています。また、「FLEXIE」の形状デザインは船首部をラウンド形状とすることで、風圧抵抗を低減し、現行の自動車船に比べ、約2%のCO2削減効果を見込んでいます。本形状は、商船三井テクノトレード(株)および(株)三井造船昭島研究所との共同研究の成果です。
「FLEXIEシリーズ」は、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する、グッドデザイン賞2018を受賞しました。同賞の海運業界における受賞は9年ぶりであり、本年の海運業界からの受賞は、当社の「FLEXIEシリーズ」が唯一でした。
新型風防を開発、当社コンテナ船に設置
~船首に設置して風圧抵抗を低減、CO2削減効果の検証を開始~

(一般財団法人)日本海事協会が産学官と連携して取り組んでいる「業界要望による共同研究」のスキームから研究支援を受け、商船三井テクノトレード(株)、 (株)大内海洋コンサルタント、(株)三井造船昭島研究所、(国立大学法人)東京大学と共同で、コンテナ船における風圧抵抗を低減する風防を開発し、商船三井が運航するコンテナ船“MOL MARVEL”の船首部に取り付け、実際の航海でのCO2の削減効果を検証します。
近年のコンテナ船の大型化に伴い、甲板上に積載するコンテナの高さも増大し、それによる風圧抵抗も無視できない程度まで増加していることから、費用対効果に優れた積極的対策が求められています。今回の新型風防の開発にあたっては、風洞試験を通じて船首の空力形状を検討し、風防本体の重量の削減に加えて風圧抵抗の低減効果が最大限得られる様、積載されたコンテナの最前列を囲う馬蹄形デザインを採用しました。本風防は(一般財団法人)日本海事協会が定める波浪衝撃荷重に関する規則に対して十分な設計強度を有しています。また、風防の後方両舷側には整流用コンテナを斜めに配置する事により船側面を平滑化し、さらなる風圧抵抗の低減を実現します。
これらの対策により、6,700TEU型コンテナ船が北太平洋航路を航海速力17ノット(時速約31km)で航行する場合、年間平均約2%のCO2削減効果を見込んでいます。また、風防による荒天航行時の青波(注1)の打ち込み対策としての効果も期待されます。
(注1) 船の船首甲板上に打ち付けられる大波のこと
低摩擦型船底塗料
特殊ポリマーを用いて塗料のレオロジー性をコントロールし塗料表面張力を緩和させる等により、塗膜表面の平滑性が向上し船体表面の摩擦抵抗を減らすことが出来る防汚塗料を当社では積極的に採用しており、施工済就航船では塗布後平均3%程度の節燃効果を確認しております。
摩擦抵抗を減らすメカニズム
※Water Trapped Layer:ヒドロゲルの作用により流れが束縛された水の層

ヒドロゲル:水を媒質としたゲル



出典:日本ペイントマリン(株)
高効率排熱エネルギー回収システム搭載船

出典:ジャパンユナイテッド(株)
高効率排熱エネルギー回収システムを搭載した大型ばら積み船“AZUL BRISA”が2014年6月16日、竣工しました。「高効率排熱エネルギー回収システム」は、主機関の排熱エネルギーを、発電機能を有する過給機(ハイブリッド過給機)と、蒸気タービンを組み合わせた発電機(ターボジェネレーター)で回収・発電します。この電力は、船内の電力をまかない、さらに主機関の軸加勢モーターを介して推進に利用して、発電機および主機関の燃料消費量を減らすことでCO2の低減に貢献します。本船は洋上での試運転において、5%以上のCO2削減効果が確認されました。
また、同様のコンセプトで開発された、主機関の排熱エネルギーを利用した推進アシストシステムが評価され、2014年(公社)日本船舶海洋工学会日本船舶海洋工学会賞(発明考案等)に選ばれました。
「ECO SAILING」の徹底
当社では、燃料削減と環境負荷低減に取り組む省エネ推進の考え方を、「ECO SAILING(エコセーリング)」と呼んでいます。環境技術の研究・開発と併せて、運航手法による努力による燃料削減の取り組みも徹底しています。具体的には、(1)減速運航の適切な実施、(2)気象・海象の予測、(3)最適トリム、(4)最適航路の選定、(5)船の浸水表面積の軽減、(6)機器類の運用・保守の最適化、(7)省エネ船型の開発、(8)PBCFの装着などの対策を実施しています。
20,000TEU 世界最大級のコンテナ船

“MOL Triumph”
世界初の20,000TEU 超のコンテナ船“MOL Triumph”(積載コンテナ数20,170TEU)は、アジア - 北欧州航路に投入され、当社が運航しています。
本船は、低摩擦船体塗装、高効率プロペラや船体推進付加物、船型最適化など各種最新の環境負荷低減技術をもって、現在当社が運航する14,000TEU型と比較して、1コンテナを輸送するに当たり排出するCO2排出量を25~30%削減することができます。
また、将来の排出規制強化を見据えて、主機関はLNG燃料船への換装対応可能な設計としています。
MOL Triumphは環境技術に加えて、実海域で船体に働く負荷を常時監視するHull Stress Monitoring Systemや、高速データ通信技術による船舶運航モニタリングシステムを搭載しています。船陸間のインターネットを介し、運航情報を本船と陸上オフィスで共有することで船の安全運航を実現します。
地球温暖化防止に関する賛同
地球環境問題の解決に取り組むことは当社グループの使命と考え、地球温暖化問題に対する3つの取り組みに賛同しています。
- 1. 気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-Related Financial Disclosures)(以下TCFD)
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TCFD は 金融安定理事会(注1)により設立されたタスクフォースで、その提言は、気候変動に関連する事業影響(リスク、機会)についての情報開示を企業に促し、機関投資家、金融機関との間で共有できるようにすることを目指したものです。
参加表明企業・団体は全世界で825社となっています。(2019年7月時点)
2018年、当社は環境省支援のもと、TCFDシナリオ分析のトライアルを実施しました。更に当社は2019年5月に発足したTCFDコンソーシアム(注2)にも参加し、そこで得られた知見を当社経営戦略に活かしていくとともに、気候変動が当社事業に及ぼす機会とリスクを効果的に開示すべく取り組んでいきます。(注1) FSB:世界主要25カ国の財務省、金融規制当局、中央銀行総裁などを参加メンバーとする国際機関。
(注2) TCFDコンソーシアム
「TCFD 提言」へ賛同する日本の企業、金融機関等に加え、オブザーバーとして経済産業省、環境省、金融庁が参加して設立。企業でのTCFD提言に関わる効果的な情報開示や、その開示情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取組について議論する場を設ける。
- 2. 「気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative)」(以下JCI)
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JCIはパリ協定を受けて日本で発足した、気候変動対策に積極的に取り組む企業や自治体、NGOなどのネットワークです。JCIへ参加することで他の参加企業・団体とのネットワーク構築を図り、地球環境問題解決への貢献に繋げていきたいと考えています。
- 3. 「COOL CHOICE(賢い選択)」
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COOL CHOICEとは、日本の温室効果ガス削減目標を達成するために、低炭素型の「製品」、「サービス」、「ライフスタイル」を促す国民運動です。
当社では船舶維新NEXTプロジェクトをはじめとする船舶技術開発や船舶運航効率向上により温室効果ガス削減に取り組んでおります。このCOOL CHOICEへの賛同により、オフィス内でも、不要時消灯・紙使用量の削減をはじめとするワークスタイル改革を通して、社員一丸となって低炭素社会の実現に向けて取り組んで参ります。
船舶ゼロ・エミッション代替燃料のワーキンググループ発足
2019年8月、当社はCCR(Carbon Capture & Reuse)研究会に入会し、「船舶ゼロ・エミッション代替燃料に関する業界横断のワーキンググループ」を立ち上げました。現在船舶で主に使用される化石燃料に代えて二酸化炭素(CO2)と再生可能エネルギー由来の水素を組み合わせるメタネーション技術によって生成される合成メタンを代替燃料とすることで、国際海運のバリューチェーンにおけるCO2排出抑制を目指します。