船員を育てるのではなく、
ひとりの人間を育てる。
世界中で働くMOLの人たちを紹介する「MOL CREW」。
今回は、フィリピンの商船大学で次世代のリーダーを
育成する学長のストーリーです。
Profile / プロフィール
- Name / 名前
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Dr. Michael Morales
マイケル・モラレス - Birthplace / 出身
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Philippines
フィリピン - Affiliation / 所属
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MOL Magsaysay Maritime Academy
MOLマグサイサイ商船大学

- Profession / 職業
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President
学長
マイケル・モラレスさんは、
MOLが共同運営するフィリピンの商船大学
MMMA(MOL Magsaysay Maritime Academy)*の学長。
船員の育成プログラムに、技術だけでなく
教養やリーダーシップを学ぶプログラムを取り入れてこれからを支える優秀な人材を輩出しています。
*フィリピンを拠点に船員の派遣や海事関連サービスの提供を手掛けるMagsaysay Maritime Corporation とMOLが2018年に設立。

士官学校で、教える楽しさを知る。


学長になるまでのキャリアについて教えてください。
私のキャリアはフィリピンの陸軍からはじまりました。そこでアメリカ留学の機会を得て、レーダーシミュレーションを専門に研究しました。帰国して最初の3年はまずフィリピン沿岸警備隊で働き、その後は陸軍の士官学校でコンピュータサイエンスを教えることになりました。そこで私は教えることが好きなのだと気づき、教員の道へと進むことになったのです。やがて士官学校でもより責任のある立場になると、リーダーシッププログラムを改善するという任務を与えられました。当時の士官学校はまだ古いやり方が残っていて、1940年代からカリキュラムがほぼ変わっていませんでした。技術や知識を厳しく教えるだけで、そんなやり方が合わずに辞めていく士官候補生たちも多かったのです。そこで「リーダーシップを育てるにはどうしたらいいか」ということが私にとってのテーマとなりました。退役後は国際リーダーシップ大学院で教えていましたが、あるときカリキュラム改革を求めていたMMMAから学長として招かれたのです。
「遠くへ行きたいなら一緒に行け」
学校の同僚はあなたにとってどんな存在ですか?
学長は教壇に立って生徒に直接教える機会はほとんどありませんが、教員を教育することには力を入れています。毎週火曜の朝にはチームと会ってビジョンを再確認しています。また定期的にスタッフを自宅に招いて食事し、お互いを深く知るための機会を設けるようにしています。私は「速く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいなら一緒に行け」という言葉が好きで、チームワークを大切にしたいと考えています。仲間たちの努力のおかげで多くの成果が出ています。まだ歴史の浅い学校ながら、海事学校評価プログラムでは45校中2位にランクインしました。その結果、2024年12月には国土交通省の「機関承認制度」における特定船員教育機関として認定。これによってMMMAで所定のカリキュラムを修了・卒業し、フィリピンの海技免状を取得した船員は日本の承認試験等が免除され、日本の船に乗ることが可能となります。


リーダーシップ教育こそが基本。


MMMAの教育では何を重視していますか?
私たちは船員としての技術も教えますが、それ以前に大切にしているのはひとりの人間を育てるということ。海の仕事は、刻々と変化する状況のなかでつねに判断を迫られる仕事です。だからこそ私たちはリーダーシップを重視しています。たとえばアジア、特にフィリピンの文化では、何か対立が起こったときに直接意見をぶつけることを避ける傾向があります。しかし安全に関わることで遠慮していたら重大な事故にもつながりかねません。何が最優先されるべきなのかを全員がきちんと理解すること。そして相手が誰であろうと、必要な意見や行動を示すこと。たとえ上の立場でなくとも、積極的に提案したり、サポートしたりといった方法で、まわりの人に影響を与えることはできます。ひとりひとりがリーダーシップを持つことで強いチームになる。そしてこのリーダーシップは、船上だけでなく彼らが一般社会で成長するうえでも非常に重要なものだと信じています。
仕事のためだけでなく、人生のために訓練する。
具体的にはどのようにリーダーシップを学ぶのですか。
商船の士官には技術的なスキルに加えて、チームワークとシナジーを生み出すリーダーシップの資質が求められます。ビジョン・誠実さ・カリスマ性・能力です。さらに異なるバックグラウンドを持つクルーが協力して効率的に働くためには、コミュニケーション能力、共感、柔軟性、文化的理解力なども大切になるでしょう。そのための具体的なトレーニングとして。たとえば最初の1年目はセルフリーダーシップに取り組みます。自分で目標設定をして、自身を人間としてどう成長させていくかということです。学期ごとに課題を設定し、その成果について責任を持つ。そして2年目は、1on1のリーダーシップ。他人をどうリードしていくか、どういうふうに成功させてあげるかということに取り組みます。3年目は、チームのリーダーシップ。たとえばクラブの部長になって組織の上に立つポジションを経験するなど、みんなでどう成功するのかを学ぶようになっています。それは人間としての成長にもつながっていきます。


ひとりひとりの成長こそが、よろこび。


この仕事でやりがいを感じることは?
やはり生徒の成長や卒業生の活躍が私たち教育者のよろこびです。たとえば先日も、卒業生のひとりから3等航海士に昇格したという報告メールが届きました。自分のことのようにうれしかったです。また、卒業生が船上勤務の休暇時間に「ノルウェーの景色だよ」と写真を送ってきてくれたりすることもあります。そんななにげないメールもとてもうれしく思います。多くのフィリピン人はまだまだ家庭が裕福ではないのですが、卒業生が安定した収入を得たことで家族のために家を建て直したという話もよく聞きます。親御さんから感謝されることも多いですね。
互いに学び、支え合う存在でありたい。
これからの夢と、世界で働く仲間たちへのメッセージを。
そうですね。やがてMMMAがトップ海事学校となって、将来の海事業界をリードするプロフェッショナルを輩出するというビジョンを達成したいです。名門大学といえばアイビーリーグの学校が思い浮かぶように、最高の海事学校といえばMMMAを思い浮かべてもらえるようになったら素晴らしいですね。学長という立場は、いずれ若い世代に譲るべきだと思いますが、その若い世代に対して投資をしていくような、メンターとかコーチングに携わっていきたいと思っています。これからMOLにもMMMAの卒業生が加わることになると思いますが、私自身もMOLファミリーの一員となれて大変うれしく思っています。コロナ禍のときも、MOLはMMMAに揺るぎないサポートを約束してくれましたし、MOLグループに励まされている立場です。これからも仲間同士で互いに支え合うことができればと思っています。
