安全運航を支える設備・ICT

造船所との連携

当社グループの事業で使用する船舶は、国内及び海外造船所より調達を行っております。船舶が高品質かつ安全に建造されるよう、当社グループより技術的な知見を持った駐在監督をプロジェクトに応じた人員を派遣し、建造の監督業務を行います。

造船所の建造監督業務には、以下の三点があります。

  • 品質管理
    当社(安全運航に資するような)要求スペックや各種船舶のルール等を確実に満たしていることを確認するために品質管理を行っています。
  • 工程管理
    納期に影響するような事態を防ぐため、また有事に迅速な対処が取れるよう日常的な管理を行います。
  • 労働安全衛生管理(HSE)
    建造開始前に、各造船所の安全規則と、当社グループが作成している「MOL Ship Tech 新造船監督HSE (Health Safety Environment)チェックリスト」との差異を確認し、その内容を現場に派遣する監督に事前に周知しています。造船所には、法令違反が疑われる場合については指摘をして改善を促したり、他社のすぐれた事例を紹介することにより、造船所の労働安全衛生向上に向けて努めています。

造船所に駐在する期間は、建造の最初(スチールカットの約一カ月後)から最後(竣工)までの1~2年程度になります。


MOL安全標準仕様、MOLスタンダード

MOL安全標準とは、過去に発生した重大海難事故を契機として、当社運航船の安全レベルを適切に保つことを目的に2006年に策定開始し、都度改訂しています。特に安全運航対策上、社会や当社利益への影響が大きい『衝突、座礁』『火災』『浸水・復原性喪失』『海上漏油、環境汚染』の防止を確固たるものにするため、仕様を定め当社船に適用してきましたが、2016年度からは『労働災害事故』防止も含めています。

MOLスタンダードは、長年の運航経験を通して得られた、(1)粗悪油対策といった運航を阻害する問題への対策、(2)メンテナンスへの対策、(3)救命・保安・環境等に資するポリシーやプラクティス、それぞれに関する知見を技術的・経済的検討を行った上で、標準仕様として体系的にまとめたものです。

対策の一部を以下の通り紹介します(「事例」をクリックするとウィンドウが開きます)

AED 高膨張泡消火システム 機関室監視カメラ ポータブルダビット 錨鎖クイックリリース装置

事例(1)AED
万一、乗組員が心停止を起こして倒れた場合、他の乗組員がAEDを使用して電気ショックを行い、迅速な心肺蘇生を実施することで、倒れた乗組員の命を救います。
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事例(2)高膨張泡消火システム
機関室で火災が発生した場合、従来は消火のためにCO2(二酸化炭素)を投入していましたが、逃げ遅れた乗組員が酸欠に陥るリスクや、換気口がうまく閉まらず空気が機関室内に入り込み、消火に時間がかかってしまうリスクがありました。このようなリスクを払拭するため、機関室に大量の泡を投入して消火するシステムを導入しました。
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事例(3)機関室監視カメラ
主機・発電機といった燃料を使う機器や、機関室からの脱出ルートの周辺に監視カメラを配置しています。火災発生時の的確な状況把握、消火作業や脱出経路における乗組員の安全確保、録画機能による事後の検証等が可能となります。
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事例(4)ポータブルダビット
バラストタンクなど閉区画での作業中に乗組員が動けなくなってしまうことも想定されます。ポータブルダビットを使用することで迅速・確実な救助が可能となります。
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事例(5)錨鎖クイックリリース装置
2006年に起きた鉄鋼石専用船の座礁・沈没事故において、錨鎖を船体から迅速に切り離せなかったことが状況を悪化させた要因の1つでした。この苦い経験を踏まえ、導入されたのが錨鎖クイックリリース装置です。ウィンドラス(揚錨装置)による巻き上げができない緊急事態に、錨鎖の付け根部分を素早く切り離すことで船体の自由を確保し、人命と船を守ります。
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MOL統合船橋

操船場所である船橋は統合型とすることを当社標準で規定しました。統合船橋は、航海計器類を中央部の一箇所にまとめることにより、当直者の操船位置を明確化し、かつ当直者の動線を確保できます。また、一般的な航海計器配置に比べ刻々と変化する周囲の状況をより迅速に入手でき、安全な操船意思決定ができます。統合船橋配置により以下の効果が期待できます。

  • 全周囲の視界が確保でき、目視による見張りが強化される。
  • 操舵手の前方視界を妨げることなく、当直者の動線を確保でき、船長・水先人・当直航海士の各自が単独で航海計器の操作・監視が可能となり、BRM(Bridge Resource Management)(*)が強化される。
  • 各航海計器類が中央部に集約することにより、その配線も集約でき、当社で過去に経験した居住区火災に伴う航海計器類の電気配線焼損事故の再発防止策に寄与できる。

(*) BRM:Bridge Resource Management。
ブリッジチームマネジメント(Bridge Team Management)とも言う。人間のミスを未然に防ぎ、あるいは起こったミスからの影響を早期に断ち切るため、船橋(ブリッジ)において、人材(船長、航海士および甲板員等の乗組員)および情報等の資源(resource)を最大限に利用しようとする考え方。

イリジウム衛星携帯電話装備

当社グループ会社管理船において、機関室火災に伴い船内電源が喪失した際にイリジウム衛星携帯電話の有効性が実証されました。これを受けて有事の際にも外部との通信をスムーズに行うことができるように既存の通信機器のバックアップとして、イリジウム衛星携帯電話を定め、新造船のみならず既存船にも装備しています。

高度安全運航支援技術の開発を推進

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安全運航を支えるICT

安全運航支援センター(通称:SOSC)では様々なシステムや外部情報から得た情報を基に運航船舶を監視・サポートしています。その中でも代表的な船舶動静監視システムと座礁リスク監視システムについて紹介します。

船舶動静監視システム

SPIRIT(Sustainable Platform with Intellectual  Resource and Innovative Technologyの略称)
2021年1月からリリースされたシステムであり、当社運航船が世界中のどこにいて、どのような気象海象の中にいるのかを監視可能です。SOSCでの監視業務だけでなく、運航担当者、社内関係者も利用し本船のサポートを実施しています。
このシステムは、気象・海象だけでなく、海賊や演習、ハイリスクエリア(HRA)等の情報を複合的にリスク評価しながら動静監視することが可能です。2022年4月からは本船の航海計画もシステムへ取り入れ、より一層のサポートを強化できるように取り組んでいます。

座礁リスク監視システム

座礁リスク監視システム(Fleet Intelligence Navigational Risk Monitoring)は本船位置、水深、海図情報といった多くのデータソースを組み合わせて、船舶が座礁リスクの高い海域へ侵入すると判定した場合に運航監視を実施しているSOSC当直者へアラートを発するというものです。
2020年7月25日に発生したWAKASHIO座礁事故に対する再発防止策として、2022年1月末より本格運用を開始しました。24時間365日体制で運航船監視にあたるSOSCでは、このシステムを常時モニタリングし、アラートが発せられた場合に、初動を起こす運用となっています。