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創立記念日 社長メッセージ

2012年04月02日

当社は4月1日に創業128周年の記念日を迎えました。
社長 武藤光一のメッセージを下記のとおりお知らせします。

苦難に立ち向かう

商船三井グループの全役職員の皆さん、本日当社は創業128周年を迎えました。
創立記念日という晴れの日ではありますが、当社を取り巻く経営環境は大変に厳しいということをまずお話しせねばなりません。2011年度の業績見込みは連結経常損益でおよそ▲270億円の赤字となる見通しで、リーマンショック後の世界的な景気後退期であった2009年度でも242億円の黒字を計上できたのに対して、また、過去最大の赤字である1993年度の▲57億円をも大幅に下回り、当社史上最大の赤字となる見込みです。この業績悪化は、海運業界がかつてないほど多くの負の要因に見舞われたことによるもので、当社が積み上げた安定利益やグループを挙げて実行してきたコスト削減をもってしてもなお、赤字転落を食い止めることはできませんでした。円高、燃料油高、震災の影響、先進国の経済減速が同時進行したことも大きな負の要因ですが、最大かつ海運業特有の要因は、ほぼ全船種における船腹供給過剰がもたらした市況低迷です。今年も昨年と同程度の新造船竣工が予測されますので、当社の業績に与える負の影響がしばらく続くことを覚悟せねばなりません。

数字で表しますと、2010年末時点での世界の船腹量は約21,500隻、2011年に竣工した新造船が約1,900隻、スクラップで600隻程度減ったものの、およそ1,300隻が昨年マーケットに増えました。これを輸送能力に換算すると、船舶の大型化もあるので約8%の増加に匹敵します。特にドライバルク船においては昨年の需要の伸びが3~4%であったのに対しキャパシティー増が10%、原油タンカーでは2~3%程度の需要増に対してキャパシティー増が7%と、需給ギャップが拡大し市況が低迷しました。2012年に竣工が予定されている船腹量は、竣工実現率を加味し、さらなるスクラップの進展があるとしても、輸送能力ベースで6%程度の純増になると推定されます。貨物需要がそれ以上に伸びないと、船腹需給の面からは今年度も昨年度と同等かそれ以上に厳しい環境となります。

新造船の発注はリーマンショックを境に大きく減退し、低迷する市況を受けて昨年来さらに停滞しているので、2013年の新造船の竣工予定量は2012年比で少なくなる見込みです。実際の竣工量は、2012年からの竣工遅延流れ込みが予想されますので小幅減少に止まると考えられますが、船腹需給改善を期待する心理的ベクトルの転換は2013年にも起き、マーケットに影響してくると思われます。

128年の歴史を通じて、当社は太平洋戦争による壊滅的な被害を含め幾多の危機に直面してきましたが、この数年は、われわれ現役世代が経験したことがないほどの厳しい環境であると認識し、この苦難に立ち向かう覚悟が必要です。

危機を乗り越えるためには、まずコストの削減を徹底的に追求せねばなりません。昨年度は減速航海を中心に200億円を上回るコスト削減を実現しました。できることは全て実行したという印象もあるでしょうが、いったん削減したコストが時間の経過とともに元に戻っているケースも含めてまだまだ削減余地はあるはずです。もう一度あらゆる出費を洗い直して、常に削減の工夫をする意欲と新しい発想を持って、更なるコスト削減を遂行してください。

ただし、苦しい状況下においても守らなければならないのは、われわれのサービスに対するお客様の信頼です。業界全体が危機的状況にある時こそ、お客様の信頼に応えて、安全で高品質なサービスを安定的に提供し続けることが、差別化につながり将来にわたっての海運事業での当社の優位性をもたらします。

当社グループがお客様から信頼を得るための最も重要な原点は、言うまでもなく安全運航です。当社は現在世界最高水準の安全運航を目指してPhase4の安全運航強化策を遂行中であり、これまでの多くの施策と人的努力、金銭的な投資の結果により、事故率をはじめとする監視指標(KPI)は目に見えて改善してきております。しかし残念ながら昨年、エレベーターの整備中に乗組員1名の死亡事故が発生し、4ゼロ(死亡事故、油濁、重大海難、重大貨物事故ゼロ)の目標が未達となったことは痛恨の極みであり、さらに今年に入ってからも、当社のコンテナ船で重大海難に発展しかねない衝突事故が起こったことは大変遺憾です。事故の間接原因までしっかりと掘り下げて、人と貨物と船の安全を守るために万全の策を講じ、繰り返し徹底せねばなりません。

財務体質を強固に維持することも、特に現在の事業環境においては、お客様から選ばれるための重要な要素となります。入るを量りて出ずるを制することで、財務体力を良好に保つ必要があり、投資についてはおのずと慎重かつより選別的にならざるを得ませんが、収益性とリスクを見極めて、将来に向けて当社の強みを一層伸ばす投資については今年度も継続していきます。

この厳しい経営環境下であっても、当社グループの長期ビジョン「世界の海運をリードする強くしなやかな商船三井グループを目指す」はいささかも揺るぎません。海運は成長産業であります。当社のコア・コンピタンスは海運、すなわち船舶の運航を通じた海上輸送サービスの提供であり、船隊整備、船舶管理、営業、運航において培ったノウハウによって業界をリードする時です。

今年度は新しい中期経営計画を策定する年です。前回GEAR UP! MOLを策定した当時と比較しても、世界の船舶建造能力は大幅に増強されており、常に船腹供給圧力がある事業環境の下で、従来のビジネスモデルとは異なる、市況下落に対して耐性のある収益モデルへの挑戦も必要です。売りと買いのタイミングとポジションには発想転換も必要でしょうし、コンテナ船におけるアライアンス拡大や、タンカーで構築したプール組成によるスケールメリットの獲得と運航効率化もこのような事業環境下での有効な手段となります。また、高品質な船舶管理と安全運航ノウハウを活かしたビジネスモデルも十分なフィージビィリティーがあると思います。さらに、LNG船ビジネス、そこから派生するFSRUなどのエネルギー関連の海洋事業も力を入れていく分野であり、当社の海運事業ポートフォリオを徐々に事業環境に適した新しい姿へと変えていかなければなりません。これらは一例ですが、新しい中期経営計画ではより具体的な変化への取り組みを盛り込んでいく予定です。

新たなビジネスモデルに取り組み、そして成功させるためには、環境変化の兆しを他社に先んじて捉えることが求められます。短期的には、2月以来急速に円高修正の動きがあり、米国の景気にもはっきりとした好転の兆しが見え始めました。欧州圏でも、ギリシャ問題の解決の目途がつきつつあることから、荷動きも回復が見込まれ、急速な運賃修復が実現しつつあります。さまざまな要素が複雑に絡み合いながら、経済活動は常に方向を変え、それに伴い海運市況も変化を生じます。われわれは、アンテナを高く掲げ、特に貨物需要につながる生きた情報をキャッチし、ビジネスインテリジェンスを磨いて、海運業において質・量ともに更なる成長を目指さなくてなりません。しばらく厳しい環境が続くことを覚悟しなければなりませんが、厳しいがゆえに、当社の競争力は相対的にアップしています。これを好機とし、商権を拡大していけば、その努力の積み重ねの後に、再び大きく飛躍する時が訪れると思います。当社グループにはそれを可能にする力があります。